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顔を揃えたいつもの店のVIPルームで、イザークは大層ご立腹であった。
無理もない。先日のアスハ家での一件で、アスランの身元が思い切り露呈してしまったのだから。


個人的にアスランがどうなろうと知ったことではない。だがキラが絡めば話は別だ。
イザークはキラに対して身内以上の感情を持っている。出会った当初は頑なに否定したりもしたが、認めてしまえば楽だった。それが恋情かと問われれば未だ複雑な部分がある。だがアスランを得ることでキラが幸せになるというなら協力を惜しまないと思うのは本心で、全ての感情に名前をつけるのも詮のないことだと敢えて追求しないようにしていた。だから今回も少しでもキラの助けになればと、それほど縁も深くない金融会社にアスランを潜入させてやった。
くどいようだが、アスランのためではない。
偶々アスランの望みと一致しただけなのだ。

なのにこの馬鹿男はイザークの苦心惨憺を全てぶち壊してくれた。


多くは語らないが、イザーク自身、親からこってり絞られたし、かなり立場の悪くなる思いをさせられた。先にも言ったように近しい子会社ならば影響も抑えられたろうが、アスハ家…というかキラが融資を持ちかけていた会社とは然程の繋がりもない。いくら新興の金融業界のトップランナーであるジュール家といえど、精々経営状況を把握するくらいが関の山で、取引にまで口を出すなんて以ての他の相手だったのだ。
無論、こちらに口出す意図など皆無だった。だが疑われても仕方ない状況で、下手をすれば会社の乗っ取りを企んでの行動だとさえ勘繰られるだろう。イザークが件の金融会社の社員だったとしてもそれを警戒する。
しかしそこらの機微を知り尽くしているはずのアスランは、然程申し訳なさそうな顔はしなかった。辛うじて棒読みの「悪かった」の一言だけ。一方のイザークは容姿の所為も手伝ってわりとクールに思われがちだが、その実は仲間内からは“瞬間湯沸し器”と異名を取るほど短気であるから、烈火の如く怒ったものの、それもニコルの「それよりも今はキラさんでしょ?」という一言で、あっさり鎮火してしまった。色々と納得出来ないが、キラのことが気掛かりなのは事実なので、取り敢えず矛先を納めてひたすらジリジリと怒りをくすぶらせている。





「んで?姫さんの具合はどうなのよ?そのくらいは聞き出してるんだろ?」
相変わらずの軽い調子のディアッカだが、さっきから手にした酒のグラスを一度も口にしていない。彼もキラのことが心配なのだ。
「過労と過度のストレスだ。それこそ寝る間も惜しんで動き回ってたらしい」
「あー、やりそうですよね、キラさん。限界だったところにアスランの顔を見て、張っていた気が抜けたってとこでしょうか。少しでも気晴らしになればと思ったんですが、逆効果だったわけですね」
「………………」
それを言われればアスランも黙るしかなかった。

ファーストコンタクトではキラの様子を伺うだけで済ませ、あわよくばアスランが諦める気がないことが伝われば充分だった。もっと段階を踏んで、キラとの接触の機会を増やしていく予定だったのだ。
性格上、キラが無理をしているのは予想してはいたが、予想を上回って疲弊していたのも今回の失態劇の原因ではあるが、キラを目にした瞬間、全てが吹き飛んでしまったアスランにも一因はあった。
傍に行きたい。抱き締めたいとそればかりに支配された。

「キラさんが心配なことに変わりないですが、静かにじっと耐えているより、大事になった方が適切な治療を受けられる分だけ安心と言えなくもない。仮にもアスハ家の当主を蔑ろにはしないでしょうから。ですがこちらは一旦手詰まりですね」
「誰かさんが下手打ったお陰でな」
「イザーク、言い過ぎですよ」
「ふん!」
イザークは憤懣遣る方ないといった調子で鼻を鳴らしたが、アスランだって自分には驚いているのだ。まさかここまで自制が効かないとは思わなかった。
アスランはイザークの辛辣な一言にも特別反応を見せるでもなく、キラの痩身を受け止めた掌を強く握り込んだ。




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