当主
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しかし話を聞いたアスランの反応は、お世辞にも頂けたものではなかった。重症患者に関わらず急に身を起そうとしたため、当然の帰結として再び無様にベッドに沈んでしまったのだ。
快方に向かっているとはいえ、まだまだ起き上がれるような状態には程遠い。そんなこと自分が一番分かっているだろうにと、ニコルは半目になってシーツに突っ伏すアスランを見下ろした。
「……訊くだけ無駄とは思いますが、まさかキラさんのところへ行く、とか言い出すつもりじゃないでしょうね?」
問い質すニコルの顔には、デカデカと「馬鹿ですか。ああ馬鹿でしたね。それもキラさん馬鹿」と書いてある。因みに痛みに呻いたアスランを目の前に、一切心配する様子を見せない薄情さは流石(?)の一言に尽きる。額に脂汗を浮かべたアスランに睨まれても、顔色ひとつ変える玉ではないのがニコルなのだ。
「貴方が今動いたところでどうなりますか?というかそのザマじゃまともに動けやしないでしょうけどね。いいですか?貴方がまずしなきゃならないのは、精々休んで怪我を治すことくらいなんですよ。そして一刻も早く戦線に復帰してください。ご覧の通り僕らだけでは手詰まりなんですから」
「――――っ、だが!このままだとキラを――、俺はキラを失ってしまう!!」
「……アスラン…」
聞いたこともないような悲壮な叫びに、ニコルが唇を歪めた。
「不安なんだ。きっとあいつは俺をこんな目に合わせたアスハ家を潰そうと思ってる。しかも責任を一手に引き受けて、だ。キラ一人にそんなことさせられるか!手遅れになる前に止めないと!!」
アスランは誰よりもキラの複雑な心境を理解していた。
生母が妾腹だということで複雑な感情を拗らせてはいても、あの子は決してアスハ家を嫌ってはいなかった。アスランと生きる道を選ぶために決別する道を選びはしたが、それとアスハ家を憎むということとは次元が違っていたのだ。
だからきっと、キラは心の奥底で誰かに止めて欲しいと願っている。
無理矢理凍らせた心は、きっと「お前がそんな辛いことをする必要はない」と言って欲しがっているはずだ。
キラの悲鳴が聞こえてくるようで、傷の痛みだけではなく、アスランの顔が歪む。
分かっているのに、動けない自分がもどかしかった。
奥歯を噛んで自らの不甲斐なさを責めるアスランに、イザークが珍しく取り成すように口を挟んだ。
「…とにかくキラに連絡を取らないとお話しにならない。そのくらいなら寝てても何とか出来るだろ?動くのは俺たちに任せておけ」
「それがいいですね。僕らの伝手だけじゃたかが知れてますから」
ニコルも肩を竦めて同意する。現実問題動けないのだから、反論のしようもなく、アスランも力なく頷くしかなかった。
「お願いしますね」
重症患者に任せるのは些か気が引けるが、こうでもしないとアスランが何をするか分からないし、余り悠長なことも言っていられないのが本音だった。その場にいた全員が、キラがもう二度と手の届かない所へ行ってしまいそうな、妙な焦燥感に突き動かされている。
少なくとも連絡すらつかないというのは明らかに意図的なもので、キラがわざとそうしているとしか思えないかった。
(――――――キラ…)
キラは独りで戦おうとしている。
実の姉に「居なくなればいい!!」などと言われ、あまつさえ命まで狙われて、傷付いたボロボロの心で。
これ以上辛いことはさせたくない。アスハ家を潰すしかないというなら、自分が手を下す。
そんなことを言えば、キラはまた哀しそうに笑うのだろうか。
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しかし話を聞いたアスランの反応は、お世辞にも頂けたものではなかった。重症患者に関わらず急に身を起そうとしたため、当然の帰結として再び無様にベッドに沈んでしまったのだ。
快方に向かっているとはいえ、まだまだ起き上がれるような状態には程遠い。そんなこと自分が一番分かっているだろうにと、ニコルは半目になってシーツに突っ伏すアスランを見下ろした。
「……訊くだけ無駄とは思いますが、まさかキラさんのところへ行く、とか言い出すつもりじゃないでしょうね?」
問い質すニコルの顔には、デカデカと「馬鹿ですか。ああ馬鹿でしたね。それもキラさん馬鹿」と書いてある。因みに痛みに呻いたアスランを目の前に、一切心配する様子を見せない薄情さは流石(?)の一言に尽きる。額に脂汗を浮かべたアスランに睨まれても、顔色ひとつ変える玉ではないのがニコルなのだ。
「貴方が今動いたところでどうなりますか?というかそのザマじゃまともに動けやしないでしょうけどね。いいですか?貴方がまずしなきゃならないのは、精々休んで怪我を治すことくらいなんですよ。そして一刻も早く戦線に復帰してください。ご覧の通り僕らだけでは手詰まりなんですから」
「――――っ、だが!このままだとキラを――、俺はキラを失ってしまう!!」
「……アスラン…」
聞いたこともないような悲壮な叫びに、ニコルが唇を歪めた。
「不安なんだ。きっとあいつは俺をこんな目に合わせたアスハ家を潰そうと思ってる。しかも責任を一手に引き受けて、だ。キラ一人にそんなことさせられるか!手遅れになる前に止めないと!!」
アスランは誰よりもキラの複雑な心境を理解していた。
生母が妾腹だということで複雑な感情を拗らせてはいても、あの子は決してアスハ家を嫌ってはいなかった。アスランと生きる道を選ぶために決別する道を選びはしたが、それとアスハ家を憎むということとは次元が違っていたのだ。
だからきっと、キラは心の奥底で誰かに止めて欲しいと願っている。
無理矢理凍らせた心は、きっと「お前がそんな辛いことをする必要はない」と言って欲しがっているはずだ。
キラの悲鳴が聞こえてくるようで、傷の痛みだけではなく、アスランの顔が歪む。
分かっているのに、動けない自分がもどかしかった。
奥歯を噛んで自らの不甲斐なさを責めるアスランに、イザークが珍しく取り成すように口を挟んだ。
「…とにかくキラに連絡を取らないとお話しにならない。そのくらいなら寝てても何とか出来るだろ?動くのは俺たちに任せておけ」
「それがいいですね。僕らの伝手だけじゃたかが知れてますから」
ニコルも肩を竦めて同意する。現実問題動けないのだから、反論のしようもなく、アスランも力なく頷くしかなかった。
「お願いしますね」
重症患者に任せるのは些か気が引けるが、こうでもしないとアスランが何をするか分からないし、余り悠長なことも言っていられないのが本音だった。その場にいた全員が、キラがもう二度と手の届かない所へ行ってしまいそうな、妙な焦燥感に突き動かされている。
少なくとも連絡すらつかないというのは明らかに意図的なもので、キラがわざとそうしているとしか思えないかった。
(――――――キラ…)
キラは独りで戦おうとしている。
実の姉に「居なくなればいい!!」などと言われ、あまつさえ命まで狙われて、傷付いたボロボロの心で。
これ以上辛いことはさせたくない。アスハ家を潰すしかないというなら、自分が手を下す。
そんなことを言えば、キラはまた哀しそうに笑うのだろうか。
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