当主
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アスランの手術は成功した。
尤もまだまだ予断は許されない状態だ。
とにかく刺された部位と流れた血が多過ぎた。過度の失血によるショック状態一歩手前だったのだ。事が起こったのが大学病院に隣接する場所でなければ、確実に命を落としていただろう。
それでも一先ず生命の危機を回避したことに、一同はほっと胸を撫で下ろした。
当然、パトリック・ザラは顛末を聞いて激怒した。グループ企業の更なる発展を目論んでのアスハ家との姻戚関係であったのだが、唯一の後継者であるアスランが生命の危険に晒されたのでは、本末転倒もいいところである。
しかしこの傷害事件が表沙汰になることはない。犯人は判っていたし、アスランは公人ではないとはいえ、特に経済界に於いては全くの私人とも言い難い微妙な立ち位置だ。事件自体公表されることはなく、対外的には少し風邪を拗らせたことになっていた。従って病室に出入りを許されているのは、一握りの人間のみ。因みにそこに許されているはずのパトリック本人が訪れることはなかった。
尤も一度だけ目を覚ましたアスランも最初に探したのがキラの姿だったのだから、お互い様なのではあるが。
冷めた親子関係を粗方予想していたニコルたちは、懇々と眠り続けるアスランを見舞うという大義名分で病室を利用し、情報交換をすることにしていた。
灯台もと暗し、である。
「……そうですか。アスハ家に目立った変化はない、と」
無論、パトリックがアスハ家に制裁を加えないわけはなかった。早々にアスランとカガリの婚約破棄を通告し、あらゆる手を使って潰しにかかっていることだろう。だがことがことだけに物見遊山で訊き回るわけにはいかないため、こうして少ない情報を持ち寄っているのだ。
「表向きには、な。アスハ家は経済的に逼迫してるわけじゃなかったし、そっち方面から首を絞めても急に効果は出ないってだけなのかもしれない」
鼻に皺を寄せたディアッカもお手上げ状態だ。
「アスハ家の名声を利用したプロジェクトが進行していたでしょう?そちらの賠償も被らせるのでは?」
「そりゃパトリックCEOはその気満々だろ。残ったのは不名誉な噂だけなんてザラ家にとってひとつも利のない展開は、是が非でも回避したいのが経済人の常道であるしな。が、先にアスハ家を潰してしまえば金の回収すら実質不可能。潰すのはむしり取ってからって考えてるから、まだアスハ家に目立った変化が見られねーだけなのかもな」
「有り得ない話じゃないですが…、温過ぎませんか?」
「俺もそう思うけど、アスハ家に変化がないのは事実だ。妥当じゃないか?」
パトリックのやり方を熟知している人間にとっては些か腑に落ちない点はあるものの、ディアッカの意見を否定するほどの材料は確かになさそうだ。パトリックの方は一旦保留にする。
「カガリ嬢については?」
「それこそ謎のままだぜ。噂も流れてきやしない」
二人して首を捻るも、こう情報が少なくては如何ともし難かった。
「さっさとアスランに目を覚ましてもらわないと動きようもないってこった」
「ですよね。鼻でも摘まんじゃいます?」
「おい、本当にやるなよ?」
「駄目ですか」
「一応重症患者だぞ」
ここ数日の緊迫した空気が弛んで、漸く会話のテンポも戻って来た。これからが自分たちの本領発揮と行きたいところなのに、どうにももどかしい。
そこへノックの音が響いた。
「相変わらずの物騒な会話だな」
銀髪を揺らして現れたのは仲間の一人であるイザークだ。今回の騒動には直接関わらなかったが、当然顛末は聞いている。その上で彼はアスハ家の方に探りを入れていたのだ。
「まだこんな質素な部屋にいるのか?」
ニコルが椅子を勧めたが、イザークは思い切り嫌そうな顔で辞退した。ニコルやディアッカと別行動とはいえ、ここに来るのは彼にとってももう三度目なのだ。
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アスランの手術は成功した。
尤もまだまだ予断は許されない状態だ。
とにかく刺された部位と流れた血が多過ぎた。過度の失血によるショック状態一歩手前だったのだ。事が起こったのが大学病院に隣接する場所でなければ、確実に命を落としていただろう。
それでも一先ず生命の危機を回避したことに、一同はほっと胸を撫で下ろした。
当然、パトリック・ザラは顛末を聞いて激怒した。グループ企業の更なる発展を目論んでのアスハ家との姻戚関係であったのだが、唯一の後継者であるアスランが生命の危険に晒されたのでは、本末転倒もいいところである。
しかしこの傷害事件が表沙汰になることはない。犯人は判っていたし、アスランは公人ではないとはいえ、特に経済界に於いては全くの私人とも言い難い微妙な立ち位置だ。事件自体公表されることはなく、対外的には少し風邪を拗らせたことになっていた。従って病室に出入りを許されているのは、一握りの人間のみ。因みにそこに許されているはずのパトリック本人が訪れることはなかった。
尤も一度だけ目を覚ましたアスランも最初に探したのがキラの姿だったのだから、お互い様なのではあるが。
冷めた親子関係を粗方予想していたニコルたちは、懇々と眠り続けるアスランを見舞うという大義名分で病室を利用し、情報交換をすることにしていた。
灯台もと暗し、である。
「……そうですか。アスハ家に目立った変化はない、と」
無論、パトリックがアスハ家に制裁を加えないわけはなかった。早々にアスランとカガリの婚約破棄を通告し、あらゆる手を使って潰しにかかっていることだろう。だがことがことだけに物見遊山で訊き回るわけにはいかないため、こうして少ない情報を持ち寄っているのだ。
「表向きには、な。アスハ家は経済的に逼迫してるわけじゃなかったし、そっち方面から首を絞めても急に効果は出ないってだけなのかもしれない」
鼻に皺を寄せたディアッカもお手上げ状態だ。
「アスハ家の名声を利用したプロジェクトが進行していたでしょう?そちらの賠償も被らせるのでは?」
「そりゃパトリックCEOはその気満々だろ。残ったのは不名誉な噂だけなんてザラ家にとってひとつも利のない展開は、是が非でも回避したいのが経済人の常道であるしな。が、先にアスハ家を潰してしまえば金の回収すら実質不可能。潰すのはむしり取ってからって考えてるから、まだアスハ家に目立った変化が見られねーだけなのかもな」
「有り得ない話じゃないですが…、温過ぎませんか?」
「俺もそう思うけど、アスハ家に変化がないのは事実だ。妥当じゃないか?」
パトリックのやり方を熟知している人間にとっては些か腑に落ちない点はあるものの、ディアッカの意見を否定するほどの材料は確かになさそうだ。パトリックの方は一旦保留にする。
「カガリ嬢については?」
「それこそ謎のままだぜ。噂も流れてきやしない」
二人して首を捻るも、こう情報が少なくては如何ともし難かった。
「さっさとアスランに目を覚ましてもらわないと動きようもないってこった」
「ですよね。鼻でも摘まんじゃいます?」
「おい、本当にやるなよ?」
「駄目ですか」
「一応重症患者だぞ」
ここ数日の緊迫した空気が弛んで、漸く会話のテンポも戻って来た。これからが自分たちの本領発揮と行きたいところなのに、どうにももどかしい。
そこへノックの音が響いた。
「相変わらずの物騒な会話だな」
銀髪を揺らして現れたのは仲間の一人であるイザークだ。今回の騒動には直接関わらなかったが、当然顛末は聞いている。その上で彼はアスハ家の方に探りを入れていたのだ。
「まだこんな質素な部屋にいるのか?」
ニコルが椅子を勧めたが、イザークは思い切り嫌そうな顔で辞退した。ニコルやディアッカと別行動とはいえ、ここに来るのは彼にとってももう三度目なのだ。
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