急転
・
「お友達…ですか?」
今日のガード担当(?)はニコルだったらしい。
キラには珍しい打ち解けた様子に、不思議そうに首を傾げながら割って入って来た。
ニコルはその穏やかな雰囲気(但し一番腹黒い)から、キラもそれほど構えずに話せる相手だ。キラはそちらとも笑みを崩さずに挨拶を交わし、お互いを簡単に紹介しようとしたのだが。
「僕の高校時代の後輩のレイ・ザ・バレルくん。で、こちらが…えーと……」
ニコルを何と説明したらいいかで悩んだらしい。尻すぼみになり困ったように眉を下げたキラは余りに分かり易くて、ニコルはクスクスと笑いながらキラに代わって自己紹介した。
「初めまして。キラさんの友達のニコルです」
その言葉にキラの心臓が跳ねた。勿論キラの方は自分たちの関係を友達だと思っていたが、ニコルも同じように考えていてくれたのだ。これが嬉しくないはずがなかった。
喜びを隠し切れてない、素直な高揚が可愛らしい。これではあのアスランが骨抜きになるのも無理はないですねと、ニコルは自分を棚に上げて思い出すまでもなく見慣れた、整った白せきの美貌の男に向かって嘲笑した。
アスランに関しては子供の頃からあまり印象は変わらない。なんせあの男ときたら、まだほんの幼い時から、冷めた目をしていたのだから。それがキラと会ってから、この短時間でどうだ。
(まさか彼のヤニ下がった顔を見られる時が来るなんて、思ってもみませんでしたよ)
実はニコルはかつてのアスランに一目置いていた。態度こそ他者にするように辛辣な姿勢は崩さなかったが、シンパと言っても過言ではなかったと思う。
何もかもに恵まれた、生まれながらの王者。そんな肩書きには誰にも心を許さない、冷酷な男が良く似合う。アスランはその条件を完璧に満たしていた。
だがそれは本人にとって、不幸なことだったのかもしれない。孤高という言葉が示す通り、王者は常に孤独なものだ。いくら周囲からチヤホヤされても、あのままではアスランは永遠に孤独なままだったに違いない。
だが彼は物語の中の王などではなく、一人の生身の人間だ。それを気付かせてくれたのは、キラの存在だった。
キラを得てアスランは物語の王者から自分たちと同じ人間へとジョブチェンジしたが、彼の魅力が半減したわけではない。寧ろ一層魅力的になったとさえ言える。
(人の心が分からずして、人の上には立てない――ってことですか)
孤高の王者を目指して精進していた自分も、相当子供だったのだ。
そんなニコルの複雑(?)な内心になど全く気付かないキラは、上機嫌のままレイに向かって首を傾げた。
「わざわざ訪ねて来るなんて、僕に何か用?」
「用がなければ会いに来てはいけませんか?…と言いたいところですが、実はその通りなんです。ちょっとお願いがありまして」
「うん。聞くよ」
肝心の用件を聞かずにアッサリと承諾してしまうキラは、レイが自分に害を為すなどと思ってもいない。そんなキラに代わって少々警戒を強くしたニコルは、一先ず黙ってことの成り行きを見守ることにする。
キラの無防備さに僅かに目を見開いたレイは、促されるまま事情を話し始めた。
「俺、この大学を受けようと思ってるんです。それでキラさんに色々相談に乗って貰おうかと」
「え!?そうなんだ!?」
かつて成績優秀者として自分が表彰された時、レイも表彰されたのだと聞かされてはいた。キラにとっては些か複雑な心境だったこともあり、残念ながら当時を覚えてはいないのだが。そこら辺の詳しい出来事は知らないニコルも、成る程あの進学校の後輩というのなら、キラの大学を志すのも規定路線だろうと勝手に納得していた。
「そっかー。ここでもきみは、僕の後輩になるんだね~」
「まだ受かるかどうかも分かりませんけどね」
心底嬉しそうに呟くキラに、一応の謙遜を見せたレイは、しかし言葉とは裏腹な自信に満ち溢れている。何よりも自分自身が落ちるなどとは微塵も計算に入れてないのだろう。その態度が妙にアスランと被った。
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「お友達…ですか?」
今日のガード担当(?)はニコルだったらしい。
キラには珍しい打ち解けた様子に、不思議そうに首を傾げながら割って入って来た。
ニコルはその穏やかな雰囲気(但し一番腹黒い)から、キラもそれほど構えずに話せる相手だ。キラはそちらとも笑みを崩さずに挨拶を交わし、お互いを簡単に紹介しようとしたのだが。
「僕の高校時代の後輩のレイ・ザ・バレルくん。で、こちらが…えーと……」
ニコルを何と説明したらいいかで悩んだらしい。尻すぼみになり困ったように眉を下げたキラは余りに分かり易くて、ニコルはクスクスと笑いながらキラに代わって自己紹介した。
「初めまして。キラさんの友達のニコルです」
その言葉にキラの心臓が跳ねた。勿論キラの方は自分たちの関係を友達だと思っていたが、ニコルも同じように考えていてくれたのだ。これが嬉しくないはずがなかった。
喜びを隠し切れてない、素直な高揚が可愛らしい。これではあのアスランが骨抜きになるのも無理はないですねと、ニコルは自分を棚に上げて思い出すまでもなく見慣れた、整った白せきの美貌の男に向かって嘲笑した。
アスランに関しては子供の頃からあまり印象は変わらない。なんせあの男ときたら、まだほんの幼い時から、冷めた目をしていたのだから。それがキラと会ってから、この短時間でどうだ。
(まさか彼のヤニ下がった顔を見られる時が来るなんて、思ってもみませんでしたよ)
実はニコルはかつてのアスランに一目置いていた。態度こそ他者にするように辛辣な姿勢は崩さなかったが、シンパと言っても過言ではなかったと思う。
何もかもに恵まれた、生まれながらの王者。そんな肩書きには誰にも心を許さない、冷酷な男が良く似合う。アスランはその条件を完璧に満たしていた。
だがそれは本人にとって、不幸なことだったのかもしれない。孤高という言葉が示す通り、王者は常に孤独なものだ。いくら周囲からチヤホヤされても、あのままではアスランは永遠に孤独なままだったに違いない。
だが彼は物語の中の王などではなく、一人の生身の人間だ。それを気付かせてくれたのは、キラの存在だった。
キラを得てアスランは物語の王者から自分たちと同じ人間へとジョブチェンジしたが、彼の魅力が半減したわけではない。寧ろ一層魅力的になったとさえ言える。
(人の心が分からずして、人の上には立てない――ってことですか)
孤高の王者を目指して精進していた自分も、相当子供だったのだ。
そんなニコルの複雑(?)な内心になど全く気付かないキラは、上機嫌のままレイに向かって首を傾げた。
「わざわざ訪ねて来るなんて、僕に何か用?」
「用がなければ会いに来てはいけませんか?…と言いたいところですが、実はその通りなんです。ちょっとお願いがありまして」
「うん。聞くよ」
肝心の用件を聞かずにアッサリと承諾してしまうキラは、レイが自分に害を為すなどと思ってもいない。そんなキラに代わって少々警戒を強くしたニコルは、一先ず黙ってことの成り行きを見守ることにする。
キラの無防備さに僅かに目を見開いたレイは、促されるまま事情を話し始めた。
「俺、この大学を受けようと思ってるんです。それでキラさんに色々相談に乗って貰おうかと」
「え!?そうなんだ!?」
かつて成績優秀者として自分が表彰された時、レイも表彰されたのだと聞かされてはいた。キラにとっては些か複雑な心境だったこともあり、残念ながら当時を覚えてはいないのだが。そこら辺の詳しい出来事は知らないニコルも、成る程あの進学校の後輩というのなら、キラの大学を志すのも規定路線だろうと勝手に納得していた。
「そっかー。ここでもきみは、僕の後輩になるんだね~」
「まだ受かるかどうかも分かりませんけどね」
心底嬉しそうに呟くキラに、一応の謙遜を見せたレイは、しかし言葉とは裏腹な自信に満ち溢れている。何よりも自分自身が落ちるなどとは微塵も計算に入れてないのだろう。その態度が妙にアスランと被った。
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