急転




だからといって、全部話すつもりなど毛頭ありはしないのだが。
「何も起こってないからその心配はいらない。というか、起こらないための、先回りみたいなもので、多分俺の思い過ごしに終わる。だから然り気無くお前を気にかけておいてくれと、確かにあいつらに頼んだ」
尤もあいつらの遣り方は全く“然り気無く”なかったらしく、アスランは小さく舌打ちする。
自分に良く似ている(認めるのは癪だが)彼らが、キラに惚れ込む気持ちも理解出来ないでもない。なんせキラはアスランが初めて自分から手に入れたいと思った存在なのだ。だからこそこれ以上ない人選だと考えたのだが、それにしてもこの事態は予想外、…いや予想以上である。

今のところキラが彼らに靡く可能性は限りなくゼロに近いと思うものの、何があるかなんて分かったものではない。
キラは何か勘違いしているようだが、アスランたちの関係に友情などいう甘いものだけで構成されているわけではなかった。アスランとキラを助けようとしているのも、半分くらいは暇潰しのはず。この先彼らの中でキラの重みが増してきたら、いつ端から掠め取られるか分かったものではない。そんな醜態を晒すなど更々ごめんだ。
アスランは彼らに対してもしっかりと警戒レベルを上げた。ておく必要があると心した。特にイザークに。


一方、アスランの狭量な独占欲などハナから理解出来るはずのないキラは、相変わらず秘密主義のアスランがご不満らしく、唇を曲げた。
「それって僕が危ない目に合う可能性があるってこと?じゃあ僕自身が一番警戒してなきゃならないのに、どうして教えてくれないのさ」
負けん気の強いキラにバレれば、気を悪くするのは明白だったため、アスランは落ち着いて対処出来る。
「だから俺の杞憂だと言ってる。それにあいつらがお前を気に入ってるのは偽りない事実だぞ。寧ろ俺の頼みごとなんて、あいつらにとってみたら大歓迎だったんじゃないか?」
キラに気にして貰いたいのはそこではないのだ。だが遠回しに釘を刺してみても、全く通じないのもまたキラである。
「なにそれ、意味分かんない。あの人たちだって暇じゃないでしょ?第一きみは二言目には気に入られてるとかなんとか言い出すけど、僕に彼らに好かれるような覚えは全然ないから」
これは駄目だとアスランはガックリと肩を落とした。キラの自己評価の低さは充分理解しているつもりだったが、無自覚にもほどがある。

そもそもいくらアスランからの“頼み”だったとはいえ、何も彼らが直々に顔を出す必要などどこにもありはしないのだ。ガードするにしたって人を雇えば済むのだし、実際アスランも父親の仕事の手伝いなどで抜けられない時にはそうしている(キラは気付いていないが)。
彼らがそれをしないのは、既にキラの心を得ているアスランとは立場が違うから、自らが積極的に出て行く方策を取っているに過ぎないのだ。

そしてそんな彼らの涙ぐましい努力を、わざわざ教えてやるほど、アスランもお目出度くはないのである。
「まぁとにかく。お前は何も心配するな。あいつらは好きでやってんだし、何か動きがあるようなら、ちゃんとお前にも話すから」
「……ほんとに?」
「勿論。お前も言ったように、本人が何も知らないんじゃ、ガードするにも限界があるからな」
「そう。――分かった」
不承不承ながら、キラは主張を引っ込めた。そもそも謀略吹き荒ぶ世界に身を置いて来たアスランに逆らうつもりもなかった。「ちゃんと話す」という言質を取っただけでも儲けものなのだ。交渉事の手管はアスランの方が遥かに上なのだから。

いつパトリックが仕掛けてくるか分からない状況は好転の兆しもない。どんな手で来るのか、キラだけでは予測もつかない現状では、彼らが傍に居てくれるのが心強いのも本音だ。

ここは彼らに甘えておいていい場面なのだろう。


対処を誤ればアスランにも悪い影響を及ぼす。それだけは避けたいとキラは思った。




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