急転




(それってどうなんだ、僕…)
こちらばかりが彼に惚れているようで、どことなく悔しかった。アスランが気付いているのかいないのかは、訊いてみなければ分からないが、藪を突いて蛇を出す結果になりかねない。気付いてなかったら、わざわざ喜ばせるネタを提供することになってしまうし、その時どんな顔をしたらいいのか皆目見当もつかない。
キラはこの話題には触れない方向で行こうと密かに決意した。



手際よく二人分の夕食を作り終える頃には、アスランが簡単にテーブルを片し、布巾を取りにキッチンへとやって来る。縦のものを横にもしなかったアスランをここまで躾(?)たのは、他でもないキラ自身だった。最初は嫌がるだろうなと思ったが、動かないのは“オレ様”だからなのではなく、こうするものだと教えれば、面倒くさがる素振りも見せずやってくれるようになった。趣味の機械弄りからも解るように、存外手先は器用っぽいから、料理も教えれば出来るようになるのだろうが、今のところキラにその予定はない。
アスランからは色んな大事なものを貰った。あのプラネタリウムの半券に始まった、服や指輪などの物だけをではない。
失うのが恐くて、求めることすら出来なかった、だけどキラが真実心から欲しかった“もの”。

“愛情”なんて、言葉では語り尽くせない大きなものを、アスランは惜しみなく与えてくれたのだ。


そのアスランに自分がしてあげられることは、あまりにも少ない。お返しを求めるアスランではないが、貰いっ放しというのでは、キラの気が済まなかった。
だからアスランが入り浸るようになって、降って湧いた温かな食事を作ってあげられるというこの立場を、そう簡単には譲ったりはしないのだ。



皿を手にふと顔を上げると、真面目くさった顔で隅々までテーブルを拭くアスランの姿があって、またもや勝手に頬が弛む。なんだか可愛いと思ってしまった。
(って!違うでしょー、僕!!)
キラは即座に勝手に熱くなった頬を意識的に引き締めてから、夕食の乗ったトレイを持ってテーブルへ向かう。脳内で繰り広げられたお花畑な思考を振り切るのは難しく、必要以上に荒々しい歩き方になったが、キラの複雑(?)な内心など知る由もないアスランに気にする素振りはなかった。




定位置と化した差し向かいで暫く食事を続け、漸く普段のペースを取り戻したキラは、懸念事項を蒸し返した。

「で?僕の周りにイザークさんたちが出没するのは、一体誰の差し金なの?」

途端に好物のロールキャベツで機嫌を良くしていたアスランの眉間に皺が寄った。上手く誤魔化せたつもりだったらしいが、そうは問屋が卸さない。
「……まだそんなこと言ってるのか?」
「遣り方が見え見え。知り合うまでは少しも接点のなかった人たちだよ?その彼らにこう次から次へと出会すのを、ただの偶然だと思うほど、僕の頭はおめでたくないから。しかも彼らと会って遅くなった日に限って、誂えたようにきみはここに来てないし」

今日は送ってもらっただけだが、時にはあの手この手で食事に連れて行かれることもあった。そんな日には連絡もしないのに、測ったようにアスランがアパートに来ていない。
つまりアスランはキラにとっては突発的な事態を、全部把握しているということだ。
「僕も馬鹿じゃないんだから、そのくらいは気付くよ。しかも彼らに頼んだのはきみなんでしょ?さぁ吐け」
「吐けって…、刑事ドラマじゃないんだぞ。ただあいつらはお前を気に入ったみたいだから、単に構い倒したいだけじゃないのか」
「往生際が悪いなぁ。あのさ、僕はこれでも、きみから話してくれるのを待ってたんだけど。この期に及んで惚けるのは、話せないようなマズい事態になってると解釈する他なくなっちゃうよ?」
「あ、いや、それはない」
みるみる表情を曇らせていくキラに、アスランはこれ以上、隠し通すのは却って良くないと思った。




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