「……幻滅したでしょ」
実際に血の繋がった父親や姉がいたと知った後も、気持ち的には天涯孤独だった。やはり育ちの違いは埋め難く、彼らと肉親の情で馴れ合う自分など想像も出来ない。それはキラ自身が選んだ道で、子供のくだらない意地だと嘲笑われても、後戻りするつもりなど更々なかった。
“彼らは血の繋がった他人”
そのスタンスの延長上で薄情だと思われるなら、それも受け入れねばならない。
急に沈黙したアスランは、キラの気の強さに流石にどん引きしているのだろうか。そう思うと、胸の内を正直に話してしまった己の愚行を少しだけ後悔した。
しかし次の瞬間、キラの身体はアスランの腕に抱き込まれていた。
「ちょ、ア・アスラン!?」
「…―――安心したよ」
耳元で囁かれ、熱い吐息に慣らされたキラの全身が、小さく震える。
「俺はキラを諦めない。残酷でもこの計画を止めるつもりはない。ウズミ氏がキラの中でどんな位置にいるのかは解ってるつもりだったが、それでもどこかに父親として慕う気持ちがないとは断言出来なかった。俺のやろうとしていることは、結果的にそんなキラの心を踏みにじるんじゃないか。もっと他にやり方があるんじゃないかって、何度も自問自答し続けてた」
暴君のアスランがそんなことで悩んでいたと知って、キラの胸に擽ったいような甘ったるい感情が生まれた。大事にされているんだという喜びに身体中の熱が上がる。
一方的に抱かれるのではなく、抱き締め合いたかったから、キラはアスランの背にそっと手を回して応えた。
「…なぁに、それ。まだそんなこと言ってるの?この際だからハッキリ言っとくけどね、あの人たちは血が繋がってるってだけで、家族だなんて一欠片も思ったことないし、これからも思うことはない。血なんか繋がってなくたって家族にはなれるんだって解った今なら、無理にあの人たちを選ぶ必要もないしね。それに少しでもきみが心配してたような殊勝な気持ちを持ち併せてたら、初めっからきみたちを阻止してるよ、腕ずくでもさ。こう見えて僕は結構強いんだから」
「………………今のって、俺こそがキラの家族に相応しいっていう意味だよな?」
「……そこは僕の腕っぷしの方に食い付いて欲しかったんですけど」
キラが心底不満そうに鼻を鳴らすのに、笑いを堪え切れない。こんな細い腕をしていて、一体どこからくる自信だそれは、と言ってやりたい。
尤もそこのところを正直に言ってしまえば、盛大に拗ねられるのは想像に難くない。拗ねるキラも可愛いが、この甘い雰囲気をわざわざ無駄にすることはないだろう。賢明なアスランは腕っぷし云々については、右から左へ流してしまうのが無難だと判断した。偽りないキラの気持ちが確認出来ただけで充分だと、半ば無理矢理頭を切り替える。

「さーてと、じゃあプロポーズもいただいたし…」
さりげなく身を離したアスランの軽口に、すかさず「話を逸らすな!あと話を聞け!!」と罵声が飛んで来たが、そんなジャレ合いも熱烈な告白(アスラン視点)の後では、痴話喧嘩にもなりはしない。喉が渇いたなと、憤慨し尚も喚き続けるキラを黙殺したまま、アスランはさっさと質素なキッチンへと向かったのだった。


キラにプロポーズをされたことに、若干の悔しさなんてものを感じながら。




◇◇◇◇


カガリが窮地に立たされたのは、それから割りとすぐのことだった。

そう遠くない未来に義父になるパトリック・ザラがウズミを訪ねて来て、愛想よく挨拶したその夜、カガリは父の書斎に呼び出された。
改まって話があるなど、ウズミにしては珍しいことではあったが、カガリは気軽にそれに応じた。いくら名高いアスハ家の当主とはいえ、カガリにとってはあくまでも父親。昼間にパトリックが姿を見せていたし、きっと婚約か結婚の話題だろうと高を括っていた。
周囲の視線など気にする必要もなかった彼女は、自らの所業が噂になっていることにまるで気付いていなかったのだ。尤も本人に後ろめたい気持ちがないのだから、無理もないと言えなくもない。

ただ今夜も新しく出来た遊び仲間と会う予定だったから、それが潰れたのを少し残念に思っただけだった。




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