有頂天




「で?さっきは何を考えてた?」
キラの体調を考慮してか、軽めのメニューが並ぶ食事を摂りながら、アスランがあくまでも然り気無く訊いてきた。動揺の余り、スプーンを取り落としそうになったキラは、慌てて咳払いで誤魔化した。
「ごほっ!別に何も。どっかの誰かさんが無茶してくれたお陰で喉の調子が悪いからね。ちょっと静かにしてただけ」
「ふーん?」
だからキラもそっけなさを装って答えたのだが、アスランが何を勘繰っているのかくらいお見通しだ。詳細を聞いてやっぱりキラが躊躇しているのではないかと窺っているに違いない。その証拠に尚も真意を探るような視線を向けてくる。
自分の言うことなどハナから信用する気はないのだと苛立ったキラは、とうとう意地でも続けてやるつもりだった食事の手を止めた。腹いせに置いたスプーンが、ガチャリと大きな音を立てた。
「どうせ僕がカガリの心配してたんじゃないかって思ってるんでしょう?そんな物言いたげに見てないで、ハッキリと訊いたらどう!?」
「さぁな。逆にキラはどうしてそう思うんだ?」
アスランはあくまでも惚け通すつもりのようだ。

それにしてもシラを切るその顔までもが格好良く見えてしまうのは、キラの視力がおかしいのか、はたまた惚れた欲目の所為か。

全く話の流れに関係ないところで頬が赤くなるのを自覚して、俯いて顔を隠しながら、キラはボソボソと弁解した。
「……言ったでしょ。撤回するつもりはないって」
「お前を疑ったりはしないよ。仮にキラがこの先後悔するとしても、そこはもう大した問題じゃないしな」
「?どういう意味?」
想定外の言葉に、思わず顔を上げてしまった。幸い頬の赤みも少しはマシになっている。
「反対しても絶対に俺が阻止するからだ。妙な同情なんかで邪魔されて、いつまでもキラを手に入れられないなんて、俺が我慢出来ない」
「っ!!どうしてきみってば、そう恥ずかしいことを――」
こういう台詞を一切目を逸らさずに言い切るアスランの頭の中は、一体どんな構造をしているのか。半ば呆れつつも、自分から逸らすのもなんだか負けるような気がして、キラは精一杯睨み付けることで応戦した。
そんな勝ち気な視線の先で、アスランは優雅に微笑む。
「恨むんなら俺を本気にさせた自分を恨むんだな」
「////っ!!」
気障な台詞もアスランが言うと妙にしっくりきてしまうのは何故なのか。
キラはせっかく冷めかけた頬を再び真っ赤にさせられて、ヒクリと喉を震わせた。
「――――ば・馬鹿じゃないの!」
可能な限り刺々しい声を出し、やけくそ気味に止まっていた食事を再開させたものの、漂う甘ったるい空気に味なんかまるで分からなかった。アスランにもキラがカガリの件を気にしていたのではないと、漠然と伝わったのだろう。それ以上追及して来なかったのは有難かった。


やはりアスランはどこかズレている。
キラがベッドで何を考えていたかなんて愚問なのだ。

――――ずっと、アスランのことを考えていたのだから。


最近ではいつもそうだった。何をしていても常に頭のどこかにアスランの存在がある。
もうアスランを知らなかった頃の自分が何を考えて生きていたのか、思い出せそうにないほどなのに。


だから追及の手が弛んで心から安堵した。こんなこと恥ずかしくて悔しくて、とてもではないが言えそうにない。
ただいつかアスランが示してくれているように、キラの方からも伝えられればいいと思う。

その時が来るのを待っている自分がいる。




(有頂天なのはカガリじゃなくて‥僕の方だ)




キラは高鳴る胸の鼓動をひた隠して、今はまだ口に出来ない感情を、そっと心の奥に仕舞ったのだった。





20141024
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