有頂天




「恋人をホテルに呼びつけて、することといえばひとつしかないのに。ほんとに期待しなかった?少しも?」
なんでこんなに追い詰められているんだと思いつつ、キラは必死で首を横に振るしかない。
「―――嘘つき」
だがたった一言で断罪され、膝裏に腕を差し入れられて、視界がグルンと回転した。
「ひゃ!!」
奇妙な浮遊感に慌てて目の前のアスランの首に抱き付いてから、横抱きにされたのだと分かっても後の祭り。こうなってしまえば然したる抵抗も意味を成さない。暴れてみたところで、振り落とされる危険が増すだけである。
せめて不本意な扱いであるとの意志くらい伝えようと睨みかけ、直ぐ様それも失敗だったと後悔した。間近で見たアスランの瞳が、情欲の光に濡れているのに気付いてしまったのだ。それと同時にいくらキツい視線を向けたつもりでも、きっと自分も同じ目をしているのだと分かってしまった。しかも悪いことに、キラの状態さえもアスランには筒抜けなのだ。
今自分がアスランの情欲を悟ったように。

そう思うと、恥ずかしさで更に身体が昂った。完全な悪循環である。


「……下ろしてよ」
それでも叩く憎まれ口に、アスランは苦笑した。かつてやった記憶はなかったが、もし自分にここまでされて、堕ちない女がいただろうか。
身体はとっくにその気になっているのに、中々心までは堕ちてこない。
本当にキラは自分をどこまでも楽しませてくれる。頑なな反応が一層アスランの雄の本能を煽るのだと、キラは全く解っていない。アスランを昂らせているのはキラなのだ。
「却下だ。生憎と俺は期待してたんでな。だからキラにそのつもりがなくても、逃がすつもりはない。恨むなら、うかうかと誘いに乗った自分を恨むんだな」
「アスラン!」
「それにここで下ろされても困るのはお前だぞ。もう、立ってもいられないんだろう?」
「そ・そんなわけ、ないじゃない!」
「それも嘘だな」
図星を指されて狼狽するキラを、アスランは軽くいなした。その余裕が癪に障る。
「嘘なんかじゃないから!大体きみのそういう根拠のない自信って、一体どこから来てるの!?」
「根拠なら、ある」
売り言葉に買い言葉の間にも、歩き出したアスランの足が止まることはなく、連れて来られたのはベッドルーム。
「ぅわ、ぷ!」
やたらとデカいベッドに転がされたキラが体勢を整える前に、のし掛かって来たアスランは、反則だと思うほど綺麗な笑顔で言った。

「分からないのなら、教えてやるよ」







(あ~…酷い目にあった……)
キラはそこで回想を強制終了させた。その後のことは詳細に思い出したくもなかった。多分恥ずかしさで死ねるレベルだ。
勿論キラだってアスランに求められるのは嫌じゃない。どころか否定しても否定しても、内から湧き上がる幸福感がコントロール出来ないほどだ。

だが物事には限度というものがあると思う。

過ぎた快楽は自分が別のものに変えられてしまうのではないか、という僅かな恐怖を伴ってキラを襲った。しかしこれ以上はもう無理だと泣いて懇願するに至っても、アスランはとうとうやめてくれなかったのだ。


途中から記憶もないが、その結果がこの身体の倦怠感なのだろう。

「…――くっ」
と、突然アスランが吹き出した。何が一体それほど愉快なのかとじっとりと睨みつけると、どうやらキラの言いたいことは伝わったらしい。
肩を震わせながらも、アスランは言い訳(?)を開始した。
「だってお前、考えてることが全部顔に出てるぞ」
「な!!」
「今だって急に真っ赤になってるし。俺の方こそ訊きたいんだが、ひとり百面相はそんなに楽しいのか?」
「~~~~~~っ!意地悪っ!!」

キラは発火するのではないかと心配になるくらい真っ赤になると、ボフンと音を立てて横になり、シーツへ潜り込んでしまった。酷使された身体が痛んだのか「痛て!」という呻き声は聞こえたが、顔を出す気配はない。流石にこれは虐め過ぎたようだと反省するも、拗ねた恋人を宥めすかす作業もまた楽しいものである。

アスランはヤニ下がった今の自分を見られなかったのはラッキーだったと思いつつ、姫の機嫌を取るために、ベッドへと近付いたのだった。




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