犬も食わず
・
「どうせ……僕は素直じゃない天邪鬼だよ!」
「………………」
まずい発言だったかとチラッと頭を掠めたが、アスランだって折角のプレゼントを突き返されたのだ。とてもではないが謝罪する気分になどなれない。
キラはアスランの沈黙を、一言の弁解も謝罪もする気はないのだと受け止めた。
「あぁそう。否定しないってことは、きみもそう思ってるってことだよね」
キラの怒りのボルテージが、上昇の一途をたどっていく。
「その上僕はまったく生憎なことに、与えられるだけは嫌だなんて考えてるおこがましい人間だしね!だけど!だけどきみだってどうかと思うよ!ただ素直に喜んでプレゼントを受け取る女の人の方が扱い易いなら、最初からそっちを選べば良かったじゃないか!それこそきみの周りには、掃いて捨てるほどいるんだろうしね!」
「…―――女?」
何故ここで女の話が出るのか。余りにも突飛過ぎる気がして鸚鵡返したアスランに、キラはハッとしたあと、ややきまりの悪そうな表情で口を噤んだ。
「キラ?」
見た目の可愛さに似合わず、キラの気が強いのは、既に折り込み済みだ。間違ってもここで引くような性格ではないはずなのに。
「……僕、今日は出かけない。そんな気分じゃない」
俯いてキラは後退った。
「ちょっと待て――」
ポケットに入れている手が、鍵を探っているのだと気付いたアスランは、引き止めようと声をかけた。だが却ってその言葉が引き金になったのか、キラはビクリと身体を震わせ踵を返すと、脱兎の如くアパートへと向けて駆け出した。
「おい!キラ!!」
「僕のことなんて、なんにも知らないんだね。それとも興味も湧かないってこと?」
僅かに動きを止めたキラが発した言葉の意味を理解する前に、痩身はあっけなくドアの向こうへと消えてしまった。
◇◇◇◇
堰を切ったように顛末をまくし立て終えた時、VIPルームにはなんとも表現し難い生温い空気が漂っていた。
「それって…喧嘩にもなってねぇんじゃ……」
言いかけたディアッカを、ニコルが片手を上げて制する。
「待ってくださいよディアッカ。アスランは恋愛初心者なんです。こちらもそのつもりで行きましょう」
「あ~…」
“めんどくせぇ”という台詞が顔に書いてあるディアッカだったが、ニコルは軽くそれをスルーした。
「アスランとキラさんがもめたのは良く分かりました。それで、仲直りするつもりはあるんですよね?」
アスランは無言でプィッと外方を向いた。ニコルの額に青筋が浮かぶのをうっかり目撃してしまったディアッカは、腹黒さにかけてはNo.1である彼の堪忍袋の尾か切れないように祈るばかりであった。
「アスラン、子供じゃないんですからちゃんと教えてください。あ、キラさんはなんて仰ってるんです?」
「姫さんも気が強いのがウリだからな。“あの車、返品するまでデートはなしだからね!”とか?ま、アスランにベタ惚れとはいえ、素直じゃないのは筋金入りだ。ここはひとつ、アスランから歩み寄るってのが常道だろ」
「…………」
「僕もそれがいいと思います。このままじゃいつまで経っても仲直り出来ませんから。それともプレゼントをたたき返すような冷たい人とは、いっそ別れてしまいますか」
「………………」
それはない。ここにいる全員が断言できる。
アスランも本音を曝せばキラと仲直りする知恵が欲しくて、わざわざ此処へ来たのだ。だがプライドが邪魔して言い出せず、ウダウダしていたところを、ニコルたちの怒りを買ってしまった。喧嘩腰になったのは想定外だったが、生い立ちが招いた結果の高い自尊心は、そう捨てられるものではないし、捨てようとも思わない。
生きにくくても仕方ないと諦めている。
ただそんなアスランの不器用な部分を、キラが殊更愛しいと思っているのだから、何が幸いするものか、巡り合わせというのは本当に分からない。
・
「どうせ……僕は素直じゃない天邪鬼だよ!」
「………………」
まずい発言だったかとチラッと頭を掠めたが、アスランだって折角のプレゼントを突き返されたのだ。とてもではないが謝罪する気分になどなれない。
キラはアスランの沈黙を、一言の弁解も謝罪もする気はないのだと受け止めた。
「あぁそう。否定しないってことは、きみもそう思ってるってことだよね」
キラの怒りのボルテージが、上昇の一途をたどっていく。
「その上僕はまったく生憎なことに、与えられるだけは嫌だなんて考えてるおこがましい人間だしね!だけど!だけどきみだってどうかと思うよ!ただ素直に喜んでプレゼントを受け取る女の人の方が扱い易いなら、最初からそっちを選べば良かったじゃないか!それこそきみの周りには、掃いて捨てるほどいるんだろうしね!」
「…―――女?」
何故ここで女の話が出るのか。余りにも突飛過ぎる気がして鸚鵡返したアスランに、キラはハッとしたあと、ややきまりの悪そうな表情で口を噤んだ。
「キラ?」
見た目の可愛さに似合わず、キラの気が強いのは、既に折り込み済みだ。間違ってもここで引くような性格ではないはずなのに。
「……僕、今日は出かけない。そんな気分じゃない」
俯いてキラは後退った。
「ちょっと待て――」
ポケットに入れている手が、鍵を探っているのだと気付いたアスランは、引き止めようと声をかけた。だが却ってその言葉が引き金になったのか、キラはビクリと身体を震わせ踵を返すと、脱兎の如くアパートへと向けて駆け出した。
「おい!キラ!!」
「僕のことなんて、なんにも知らないんだね。それとも興味も湧かないってこと?」
僅かに動きを止めたキラが発した言葉の意味を理解する前に、痩身はあっけなくドアの向こうへと消えてしまった。
◇◇◇◇
堰を切ったように顛末をまくし立て終えた時、VIPルームにはなんとも表現し難い生温い空気が漂っていた。
「それって…喧嘩にもなってねぇんじゃ……」
言いかけたディアッカを、ニコルが片手を上げて制する。
「待ってくださいよディアッカ。アスランは恋愛初心者なんです。こちらもそのつもりで行きましょう」
「あ~…」
“めんどくせぇ”という台詞が顔に書いてあるディアッカだったが、ニコルは軽くそれをスルーした。
「アスランとキラさんがもめたのは良く分かりました。それで、仲直りするつもりはあるんですよね?」
アスランは無言でプィッと外方を向いた。ニコルの額に青筋が浮かぶのをうっかり目撃してしまったディアッカは、腹黒さにかけてはNo.1である彼の堪忍袋の尾か切れないように祈るばかりであった。
「アスラン、子供じゃないんですからちゃんと教えてください。あ、キラさんはなんて仰ってるんです?」
「姫さんも気が強いのがウリだからな。“あの車、返品するまでデートはなしだからね!”とか?ま、アスランにベタ惚れとはいえ、素直じゃないのは筋金入りだ。ここはひとつ、アスランから歩み寄るってのが常道だろ」
「…………」
「僕もそれがいいと思います。このままじゃいつまで経っても仲直り出来ませんから。それともプレゼントをたたき返すような冷たい人とは、いっそ別れてしまいますか」
「………………」
それはない。ここにいる全員が断言できる。
アスランも本音を曝せばキラと仲直りする知恵が欲しくて、わざわざ此処へ来たのだ。だがプライドが邪魔して言い出せず、ウダウダしていたところを、ニコルたちの怒りを買ってしまった。喧嘩腰になったのは想定外だったが、生い立ちが招いた結果の高い自尊心は、そう捨てられるものではないし、捨てようとも思わない。
生きにくくても仕方ないと諦めている。
ただそんなアスランの不器用な部分を、キラが殊更愛しいと思っているのだから、何が幸いするものか、巡り合わせというのは本当に分からない。
・