犬も食わず
・
「―――んっだよ~~!そんな理由かよ~!!」
ディアッカが喚きながらソファの背凭れに体を沈ませるのと、イザークが額に手を当て無言で俯くのとは、ほぼ同時だった。
アスランは呪縛にかかったかのようにポカンと口を開けている。救いようがない。
各々のリアクションに照れ臭さも手伝って、キラは頬を膨らませた。
「“そんなこと”って!僕だって男なんだから、出来ることは自分の力でやりたいと思うのが当然でしょ?そうやって僕が頑張ろうとしてるのに、いきなり車なんてポンとプレゼントされたんだよ!?意固地にもなるってもんでしょ!」
「あーキラさん、分かりましたから落ち着いて。身体に障りますよ」
すっかり毒気を抜かれたらしいニコルに、苦笑しながら宥められた。
年下に子供扱いされるのは面白くなくて、キラは増々仏頂面になる。この素直さが可愛いとニコルが思っていることは明白だが、勿論口には出さなかった。言ってもキラを怒らせるだけで、ここにいる全員(キラを除く)が共通して思っていることであったりもする。
「アスランは別段苦にしてないと思いますけどねぇ。運転するのは」
「そりゃ、そうかもしれないけど…。でも普段はお抱え運転手の人がいるくらいだから、疲れる時もあるんじゃないの?」
「ああ、違いますよ」
「?」
まさかの否定の意図が分からず、キラは縋るような目をニコルに向けた。
「アスランはキラさんが助手席に乗ってくれること自体が嬉しいんです。疲れるなんて有り得ない」
「…僕が助手席に?」
アスランが自分の車で来る時は、キラが助手席に乗るのが自然な流れだと思っていた。そんなことに意味なんてあるのだろうかと首を傾げる。車の所有者はアスランだし、彼が運転席から動かない以上、キラが助手席なのは当然ではないのか。毎回運転させて悪いなと思うことがあっても、免許のない自分では代わるとも言い出せなかった。少しでも事態を打開したくて、教習所に通おうと一大決心したのに。
ここまで言ってもピンと来ないキラは、男としての何かが欠落しているのか、アスランの許婚者としての自覚に欠けているのか。
きっとその両方なのだろう。ニコルはこれから先も二人の些細なすれ違いによる痴話喧嘩が頻繁に繰り広げられるに違いないと、密かにげんなりする。自分たちが彼らの起こす騒動に巻き込まれてしまうのも、最早規定路線な気がしてならない。
そしてそんな未来も悪くないと思えてしまうのだから、自分たちも大概毒されている。
ニコルは人差し指を立て、訳知り顔の教師のように振ってみせた。
「だって男にとって助手席に“恋人”を乗せるのは一種のステイタスですから」
「―――――――――ほえ?」
「アスランはね、キラさんを助手席に乗せてドライブしながら、男のロマンを満喫してるんですよ」
馬鹿ですよねと、ニコルがチラリとキラには向けない嘲りの笑みでアスランを見ると、当のアスランは分かり易く撃沈していた。
全く以て仰る通りで、グウの音も出ないのだ。
「俺の車の助手席はお前だけの指定席だってやつ。アスランも何だかんだ言って、恋愛に関しちゃ初心者同然だからな~。憧れてたんじゃないの?そーいうシチュエーションに」
「くだらん!」
追い討ちをかけるようにディアッカとイザークも同調する。完膚なきまでに叩きのめされたアスランは虫の息だ。
だが図らずもそれを救ったのは、天然にこの人ありきと言われたキラ・ヤマトの一言だった。
「そんな…こ・恋人だなんて」
顔を真っ赤にして恥じらうキラに、ニコル・イザーク・ディアッカの視線が一斉に突き刺さる。
「アスラン、僕をそんな風に思っててくれたんだ」
(((拘るポイントはそこなのか――!!)))
外野三人の内心でのツッコミなど、脳内がお花畑と化した“恋人たち”に聞こえようはずもない。
キラの潤んだ瞳はもうアスランしか見ていないし、瞬く間に復活を遂げたアスランは、余裕の笑みなど湛えている。
「当たり前だろ。キラは俺の許婚者なんだから。俺の車の助手席は未来永劫キラのものだよ」
「アスラン、嬉しい」
「だから俺を気遣ってくれる気持ちは嬉しいが、無理はしないでくれ。心配で心配で目が離せなくなる」
「うん。ごめんなさい」
「………あ~あ。始まったよ」
「僕ら、完全に眼中にないですねえ」
「甘ったる…。俺、甘いの苦手。マジ吐きそ」
「これぞまさしく“ナントカは犬も喰わず”ってやつですかね」
「いや、それ全然ウマくないから」
「馬鹿馬鹿しい!俺は帰る!付き合ってられん!!」
「待ってくださいよー!イザークぅ」
ドスドスと足取りも荒く病室を後にするイザークに続いてニコルとディアッカも腰を上げたが、見つめ合う二人がお互いから視線を反らすことはなかった。
プレゼントされた件の車は、ザラ家の車庫の奥で、キラが無理のないペースで免許を取得するのを、今か今かと待っている。
了
20130919
……ギャグテイストでごめんなさい。
「―――んっだよ~~!そんな理由かよ~!!」
ディアッカが喚きながらソファの背凭れに体を沈ませるのと、イザークが額に手を当て無言で俯くのとは、ほぼ同時だった。
アスランは呪縛にかかったかのようにポカンと口を開けている。救いようがない。
各々のリアクションに照れ臭さも手伝って、キラは頬を膨らませた。
「“そんなこと”って!僕だって男なんだから、出来ることは自分の力でやりたいと思うのが当然でしょ?そうやって僕が頑張ろうとしてるのに、いきなり車なんてポンとプレゼントされたんだよ!?意固地にもなるってもんでしょ!」
「あーキラさん、分かりましたから落ち着いて。身体に障りますよ」
すっかり毒気を抜かれたらしいニコルに、苦笑しながら宥められた。
年下に子供扱いされるのは面白くなくて、キラは増々仏頂面になる。この素直さが可愛いとニコルが思っていることは明白だが、勿論口には出さなかった。言ってもキラを怒らせるだけで、ここにいる全員(キラを除く)が共通して思っていることであったりもする。
「アスランは別段苦にしてないと思いますけどねぇ。運転するのは」
「そりゃ、そうかもしれないけど…。でも普段はお抱え運転手の人がいるくらいだから、疲れる時もあるんじゃないの?」
「ああ、違いますよ」
「?」
まさかの否定の意図が分からず、キラは縋るような目をニコルに向けた。
「アスランはキラさんが助手席に乗ってくれること自体が嬉しいんです。疲れるなんて有り得ない」
「…僕が助手席に?」
アスランが自分の車で来る時は、キラが助手席に乗るのが自然な流れだと思っていた。そんなことに意味なんてあるのだろうかと首を傾げる。車の所有者はアスランだし、彼が運転席から動かない以上、キラが助手席なのは当然ではないのか。毎回運転させて悪いなと思うことがあっても、免許のない自分では代わるとも言い出せなかった。少しでも事態を打開したくて、教習所に通おうと一大決心したのに。
ここまで言ってもピンと来ないキラは、男としての何かが欠落しているのか、アスランの許婚者としての自覚に欠けているのか。
きっとその両方なのだろう。ニコルはこれから先も二人の些細なすれ違いによる痴話喧嘩が頻繁に繰り広げられるに違いないと、密かにげんなりする。自分たちが彼らの起こす騒動に巻き込まれてしまうのも、最早規定路線な気がしてならない。
そしてそんな未来も悪くないと思えてしまうのだから、自分たちも大概毒されている。
ニコルは人差し指を立て、訳知り顔の教師のように振ってみせた。
「だって男にとって助手席に“恋人”を乗せるのは一種のステイタスですから」
「―――――――――ほえ?」
「アスランはね、キラさんを助手席に乗せてドライブしながら、男のロマンを満喫してるんですよ」
馬鹿ですよねと、ニコルがチラリとキラには向けない嘲りの笑みでアスランを見ると、当のアスランは分かり易く撃沈していた。
全く以て仰る通りで、グウの音も出ないのだ。
「俺の車の助手席はお前だけの指定席だってやつ。アスランも何だかんだ言って、恋愛に関しちゃ初心者同然だからな~。憧れてたんじゃないの?そーいうシチュエーションに」
「くだらん!」
追い討ちをかけるようにディアッカとイザークも同調する。完膚なきまでに叩きのめされたアスランは虫の息だ。
だが図らずもそれを救ったのは、天然にこの人ありきと言われたキラ・ヤマトの一言だった。
「そんな…こ・恋人だなんて」
顔を真っ赤にして恥じらうキラに、ニコル・イザーク・ディアッカの視線が一斉に突き刺さる。
「アスラン、僕をそんな風に思っててくれたんだ」
(((拘るポイントはそこなのか――!!)))
外野三人の内心でのツッコミなど、脳内がお花畑と化した“恋人たち”に聞こえようはずもない。
キラの潤んだ瞳はもうアスランしか見ていないし、瞬く間に復活を遂げたアスランは、余裕の笑みなど湛えている。
「当たり前だろ。キラは俺の許婚者なんだから。俺の車の助手席は未来永劫キラのものだよ」
「アスラン、嬉しい」
「だから俺を気遣ってくれる気持ちは嬉しいが、無理はしないでくれ。心配で心配で目が離せなくなる」
「うん。ごめんなさい」
「………あ~あ。始まったよ」
「僕ら、完全に眼中にないですねえ」
「甘ったる…。俺、甘いの苦手。マジ吐きそ」
「これぞまさしく“ナントカは犬も喰わず”ってやつですかね」
「いや、それ全然ウマくないから」
「馬鹿馬鹿しい!俺は帰る!付き合ってられん!!」
「待ってくださいよー!イザークぅ」
ドスドスと足取りも荒く病室を後にするイザークに続いてニコルとディアッカも腰を上げたが、見つめ合う二人がお互いから視線を反らすことはなかった。
プレゼントされた件の車は、ザラ家の車庫の奥で、キラが無理のないペースで免許を取得するのを、今か今かと待っている。
了
20130919
……ギャグテイストでごめんなさい。
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