怠け者
・
「キ・ラ……?」
「それじゃ‥あのパーティの前にアスランから連絡が来なかったのも、こっちから連絡つけられなかったのも、お父さんの策略なんだ。確かにお父さんが倒れたって直後にパーティだなんて、考えるまでもなくおかしいもんね。もうそこから既に騙されてたってことか。流石腐っても財界トップのザラ家の当主。ワンマンぶりも半端じゃないんだね」
蕩々と語り続けるキラは、誰かに同意を求めるのではなく、自分に言い聞かせているようだった。まさにその通りなだけに、アスランも眉を顰めるだけで否定など出来ようはずもない。
「そっか。うん、良く解ったよ」
再び顔を上げたキラの表情に、三人はハッとさせられた。
キラは満面の笑みを湛えていたのだ。
しかも唇は弧を描いていても、目が少しも笑っていないという、最も“らしくない”笑顔だった。
実年齢より幼く見られがちな可愛い容姿のキラには、無邪気な明るい笑顔が一番似合うのだろう。
だがそもそも“キラらしい”とはどういう意味だったのかと、アスランは不意に思った。
キラは外見からは想像も出来ないほど気が強く、意に沿わなければ真っ向から対立も辞さない。それはお互いが反発し合っていた頃、嫌というほど体験させられた。キラを知るに連れそれがアイデンティティーを貫くために必要な強さだったのだと理解するようになってからは、長所にはなっても短所にはなり得なかった。やがて気が付けば、誰にも頼ろうとはせず孤軍奮闘するキラから、目が離せなくなっていたのだ。
アスランがどうしても手に入れたいと思ったキラは、誰かにおとなしく護られているような深窓の姫などではない。逆に言えばそんな相手にアスランが惚れるはずもなかった。
だからこそ。
今の鬼気迫る凄絶な笑みこそが、本当の“キラらしい”笑みなのだ。
「僕は撤回しないからね」
魅入られたように固まった三人が見えてないかのように、キラはキッパリと宣言した。
「僕が父であるウズミ・ナラ・アスハに言った、きみを諦めたくないってあの言葉。絶対に撤回しないから」
「キラさん、ですが…」
「それで排除したいなら好きにすればいい。どうせ邪魔者扱いには慣れてる」
別に自虐のつもりではなく本当のことを言ったまでだが、ニコルはバツが悪そうに閉口した。
キラは真っ直ぐにアスランを見つめて言った。
「きみも怠けてないで、一度決めたことを貫いてよ」
「キラ…」
「貫いて、僕を手に入れてみせて」
聞きようによっては相当自分に自信がないと言えない台詞だ。実際“自惚れるな”と呆れられても仕方ない。
でもアスランがカガリに気持ちを移してしまったわけではないらしい。まだ望みを捨てなくていいのなら、出来ることは何でもしようと思った。
強い意志を湛えたキラの紫水晶が薄暗い照明に照らされて、一際美しく輝く。
不意に張り詰めた沈黙を破り、小さく始まった笑い声は、皆が戸惑っている内に段々と大きくなって、やがて気の所為では済まされないほど場を満たした。犯人はニコルだった。
「おい…」
笑ってる場合かとディアッカが咎めるものの、ニコルはついに体を前のめりにして腹を抱えて笑い出してしまう。
(マジで勘弁してくれよ…)
ディアッカが冷や汗をかきながらアスランとキラの顔色を伺った。結果的に二人に挟まれた位置に座っていたディアッカである。気が気でないのは無理もない。
そんなディアッカの都合を考慮したわけではないのだろうが、ニコルはひーひー言いながらも、辛うじて笑いの発作を押し込めた。余程可笑しかったのが、目には薄ら涙まで浮かべている。
「あぁ、可笑しい。だって、こんなんじゃアスランに勝ち目はないなぁって思って」
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「キ・ラ……?」
「それじゃ‥あのパーティの前にアスランから連絡が来なかったのも、こっちから連絡つけられなかったのも、お父さんの策略なんだ。確かにお父さんが倒れたって直後にパーティだなんて、考えるまでもなくおかしいもんね。もうそこから既に騙されてたってことか。流石腐っても財界トップのザラ家の当主。ワンマンぶりも半端じゃないんだね」
蕩々と語り続けるキラは、誰かに同意を求めるのではなく、自分に言い聞かせているようだった。まさにその通りなだけに、アスランも眉を顰めるだけで否定など出来ようはずもない。
「そっか。うん、良く解ったよ」
再び顔を上げたキラの表情に、三人はハッとさせられた。
キラは満面の笑みを湛えていたのだ。
しかも唇は弧を描いていても、目が少しも笑っていないという、最も“らしくない”笑顔だった。
実年齢より幼く見られがちな可愛い容姿のキラには、無邪気な明るい笑顔が一番似合うのだろう。
だがそもそも“キラらしい”とはどういう意味だったのかと、アスランは不意に思った。
キラは外見からは想像も出来ないほど気が強く、意に沿わなければ真っ向から対立も辞さない。それはお互いが反発し合っていた頃、嫌というほど体験させられた。キラを知るに連れそれがアイデンティティーを貫くために必要な強さだったのだと理解するようになってからは、長所にはなっても短所にはなり得なかった。やがて気が付けば、誰にも頼ろうとはせず孤軍奮闘するキラから、目が離せなくなっていたのだ。
アスランがどうしても手に入れたいと思ったキラは、誰かにおとなしく護られているような深窓の姫などではない。逆に言えばそんな相手にアスランが惚れるはずもなかった。
だからこそ。
今の鬼気迫る凄絶な笑みこそが、本当の“キラらしい”笑みなのだ。
「僕は撤回しないからね」
魅入られたように固まった三人が見えてないかのように、キラはキッパリと宣言した。
「僕が父であるウズミ・ナラ・アスハに言った、きみを諦めたくないってあの言葉。絶対に撤回しないから」
「キラさん、ですが…」
「それで排除したいなら好きにすればいい。どうせ邪魔者扱いには慣れてる」
別に自虐のつもりではなく本当のことを言ったまでだが、ニコルはバツが悪そうに閉口した。
キラは真っ直ぐにアスランを見つめて言った。
「きみも怠けてないで、一度決めたことを貫いてよ」
「キラ…」
「貫いて、僕を手に入れてみせて」
聞きようによっては相当自分に自信がないと言えない台詞だ。実際“自惚れるな”と呆れられても仕方ない。
でもアスランがカガリに気持ちを移してしまったわけではないらしい。まだ望みを捨てなくていいのなら、出来ることは何でもしようと思った。
強い意志を湛えたキラの紫水晶が薄暗い照明に照らされて、一際美しく輝く。
不意に張り詰めた沈黙を破り、小さく始まった笑い声は、皆が戸惑っている内に段々と大きくなって、やがて気の所為では済まされないほど場を満たした。犯人はニコルだった。
「おい…」
笑ってる場合かとディアッカが咎めるものの、ニコルはついに体を前のめりにして腹を抱えて笑い出してしまう。
(マジで勘弁してくれよ…)
ディアッカが冷や汗をかきながらアスランとキラの顔色を伺った。結果的に二人に挟まれた位置に座っていたディアッカである。気が気でないのは無理もない。
そんなディアッカの都合を考慮したわけではないのだろうが、ニコルはひーひー言いながらも、辛うじて笑いの発作を押し込めた。余程可笑しかったのが、目には薄ら涙まで浮かべている。
「あぁ、可笑しい。だって、こんなんじゃアスランに勝ち目はないなぁって思って」
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