怠け者




ニコルはカガリの身の安全を保証してはくれたが、その言葉を鵜呑みにしてしまうほど、キラは彼のことを知らない。
というか会ったばかりだ。
だが自分には到底窺いようもない肚の内でも、アスランになら手に取るように分かるはずだ。そして彼ならキラがそんな恐ろしい手段は断固拒否するのも予想出来るに違いない。
今はアスランがニコルの提案に異論を唱えないのを信じるしかなかった。
それでも嫌な展開になった時、自分では手遅れになるのではないかと不安で心許なくて、全てを任せ切る心境にはなれそうもない。
「……首尾よく婚約が解消になったとして…、その後カガリはどうなるの?」
「さぁ。そこまでは僕らも責任持てません」
「ええ!?」
さも当然とばかりにアッサリと返されて、キラは仰天した。
「そ・それはちょっと酷くない?だって‥仕組んだ男の人たちが誘惑する、んでしょ?もしもカガリが本当にその中の誰かを好きになっちゃったとしたら―――」
「まぁ、その可能性も捨てられませんよねぇ」
「てか確率高いんじゃね?」
「そうだよね?そんなのっていくらなんでも」
可哀想な気がする、と、キラの声はどんどん小さくなり、言い終わる前に視線を膝へと落としてしまった。
ニコルとディアッカが自分たちのために骨を折ろうとしてくれているのに、文句ばかりの自分が恥ずかしくなって来たのだ。何しろキラのやったことといえば、泣き喚いたり酔っ払って醜態を曝したりで、見苦しいことこの上なかった。
(そりゃ、僕だってアスランが戻ってくれるなら嬉しいけど…だけどカガリだって純粋にアスランを好きになっただけなのに)
ただそこに家同士のいざこざが絡んできて、事態をややこしくしてるだけで。


早速躊躇いかけたキラには見えないところで、ニコルがチラリとアスランと視線を交わす。小さく頷いたアスランは俯いてしまったキラの細い肩を引き寄せた。
宣言通り、キラの説得はアスランの役目だからだ。

「…―――キラ。そこから先はカガリ嬢の問題だろ」
「アスラン?」
「こちらに邪な企みがあるのは認めるが、俺たちが与えるのは単なるきっかけに過ぎない。よしんばその中の誰かに本気で惹かれたとしても、彼女自身がその男に好かれるよう努力すればいいだけのことだ。俺たちは“誘惑しろ”と言うだけで“捨てろ”とまで指示するわけじゃないからな」
「…………そうなの?」
キラに確認するような視線を向けられて、ニコルもディアッカも頷いて見せた。
「勿論です」
「俺らの目的はあくまでもアスランとカガリ嬢の婚約解消。その後のことまでは知らね~よ。第一面倒くせーしな」
「な?二人もああ言ってる。そのくらいなら仕掛けてみても構わないと思わないか?」
「う…ん……」

とはいえ多少破天荒な性格だが一応深窓のご令嬢であるカガリが、男に免疫がないのは見立て通りだろう。急にチヤホヤされて有頂天になり、男たちに辟易とされるのは目に見えているが、今それを親切にキラに教えてやる必要はない。
折角渋々ながらキラの同意も取り付けたのだ。

気が変わらない内にと、ニコルはパンと手を打つと宣言した。



「さぁて!それじゃカガリ嬢に楽しい未来を満喫して頂くとしましょうか!」





20131005










以下、本編に全く関係ないおまけ↓↓↓↓↓


「話を蒸し返すようで悪いが」
「うん?」
「イザークとは本当に何もなかったんだな?」
「………………」
(…―――これって僕が何て答えても、もう信用出来ないんじゃないの?)
「キラ?」
(まさか、やっぱり即答出来ない何かがあったのか!?)
(あ~、なんかグルグルしてるな。よし、からかっちゃえ)
「うん。ほんとはね。有ったような、無かったような…」
「何だそれは!ハッキリしろ!!」
「あ、そうだ!僕、酔っ払ってたんだった!」
「はぁ!?」
「酔っ払いの戯れ言なんて信用出来ないよね、アスランvV」
「キラ!」
「嘘、嘘、う~そ!み~んな、うそだよ~」
「ちょ、キラ~!!」

(嘘って、一体どれが嘘なんだ~~っ!!!?)
(僕なんかきみの勝手で泣かされたりしたんだからね!きみだって僕の口から答えを引き出そうとしないで、ちょっとは自分で考えろ!怠け者!!)




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