怠け者
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「お二人がラブラブなのは胸焼けするほど分かりました。でも色々と大事なことを忘れてませんか?」
ディアッカは啣え煙草を指に挟んで、煙と共に大きな溜息を吐いた。
「あ~あるある。まずは姫さんの身の安全をどうやって確保するか、だよな」
「ええ。無論、アスランがお飾りの正妻を得て、キラさんは現状のままでいいと言うならば、話は簡単なんですが」
「……でも、僕は‥もう」
つまりはずっと“愛人”扱いだという意味だ。否定の口調は曖昧だったが、キラの瞳に迷いはないのを見て、ニコルは満足げに大きく頷いた。
「ですよね。寧ろそのくらいの勢いがないと、覆せるものも覆せませんから」
「……………………」
アスランは苦い表情で黙りこくっている。キラを守りたい一心だったとはいえ、軽はずみにカガリと婚約してしまったことを悔やんだ。が、文字通り後悔しても後の祭りだ。
しかもパトリックの恐ろしさは、息子であるアスランが一番よく知っている。
ニコルは真剣な目でアスランとキラを見た。
「そこで僕に策があります」
「え――?」
キラが不思議そうに首を傾げた。アスランも訝しげに唇を歪めている。
二人の反応を置き去りにして、ニコルはどんどん先へと話を進め始めた。
「パトリック氏を動かすのは難しいでしょう。ですからここはカガリ嬢の方に婚約不履行である状況になって頂くのがいいかと思うんです」
「なるほどな~」
「つきましてはもう一度キラさんの覚悟のほどをお聞きしときたいと――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
話の腰を折られたニコルが眉を寄せた。
「なんですか?やっぱり愛人扱いでいいなんて言い出すつもりじゃないでしょうね」
「い・いいえ、そういうことじゃなくて……」
ニコルの後ろにドス黒いオーラが見えてしまうのは、キラの気のせいなのだろうか。
尻すぼみになるキラの言葉の後を、アスランが受けた。
「まさかとは思うが、協力してくれるつもり‥なのか?」
「「は?」」
今度はニコルとディアッカが間抜けな声を上げる番だった。
その勢いにたじろぎながらも、アスランはどうにか変わらない口調を維持した。
「だってそうだろう?俺とキラがどうなろうと、お前らには関係ない話しじゃないか」
「―――それは…また、極論ですね」
疑問は普段の彼らを知るアスランからすれば至極尤もなもので、珍しくニコルが返事に窮した。本当はただ純粋に二人をくっつけてやろうとしているだけなのだが、それを認めるのは照れ臭い。というか癪だ。一体誰に対してプライドを保とうとしているのかはニコル自身にも分からないけれど、腹黒さで名を馳せる自分が、何のメリットもなく応援したいと思っている事実を知られるのは抵抗があった。
前途多難な恋人たちに力を貸してやろうという気持ちが芽生え始めていたディアッカは、そんなニコルの心理が手に取るように分かって、やれやれとばかりに頭を掻いた。
「ま~乗り掛かった船ってことでいーじゃん。お前らも協力者がいた方が心強いだろ?」
「それは、そうだが…。ディアッカ、お前だって面倒ごとにわざわざ顔を突っ込むのを嫌がるじゃないか」
(だからその信条に反してまでも、お前らに協力したいんだって、言わなきゃ分からないのか!?)
どいつもこいつも素直じゃなくて苛々する。もう本当に面倒くさくて、いっそ一抜けしてしまおうかと脳裏を過るが、出来はしない自分もよく分かっていた。ただわざわざ口に出して言ってやるほど、お人好しではないだけだ。
アスランとキラをしょうがないお子様だと思いながらも、ニコルとディアッカだって結構子供なのである。
「あーだからそこんとこはいいから!ウダウダ言ってねーで、まずはニコルの策ってやつを黙って聞け!!」
「は、はい!」
誤魔化す為にわざと大声を出したディアッカに驚いて、キラが殆ど反射で姿勢を正して聞く体制に変わる。
流石にアスランは胡乱な目をしたが、結局はキラに倣っておとなしくなった。
・
「お二人がラブラブなのは胸焼けするほど分かりました。でも色々と大事なことを忘れてませんか?」
ディアッカは啣え煙草を指に挟んで、煙と共に大きな溜息を吐いた。
「あ~あるある。まずは姫さんの身の安全をどうやって確保するか、だよな」
「ええ。無論、アスランがお飾りの正妻を得て、キラさんは現状のままでいいと言うならば、話は簡単なんですが」
「……でも、僕は‥もう」
つまりはずっと“愛人”扱いだという意味だ。否定の口調は曖昧だったが、キラの瞳に迷いはないのを見て、ニコルは満足げに大きく頷いた。
「ですよね。寧ろそのくらいの勢いがないと、覆せるものも覆せませんから」
「……………………」
アスランは苦い表情で黙りこくっている。キラを守りたい一心だったとはいえ、軽はずみにカガリと婚約してしまったことを悔やんだ。が、文字通り後悔しても後の祭りだ。
しかもパトリックの恐ろしさは、息子であるアスランが一番よく知っている。
ニコルは真剣な目でアスランとキラを見た。
「そこで僕に策があります」
「え――?」
キラが不思議そうに首を傾げた。アスランも訝しげに唇を歪めている。
二人の反応を置き去りにして、ニコルはどんどん先へと話を進め始めた。
「パトリック氏を動かすのは難しいでしょう。ですからここはカガリ嬢の方に婚約不履行である状況になって頂くのがいいかと思うんです」
「なるほどな~」
「つきましてはもう一度キラさんの覚悟のほどをお聞きしときたいと――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
話の腰を折られたニコルが眉を寄せた。
「なんですか?やっぱり愛人扱いでいいなんて言い出すつもりじゃないでしょうね」
「い・いいえ、そういうことじゃなくて……」
ニコルの後ろにドス黒いオーラが見えてしまうのは、キラの気のせいなのだろうか。
尻すぼみになるキラの言葉の後を、アスランが受けた。
「まさかとは思うが、協力してくれるつもり‥なのか?」
「「は?」」
今度はニコルとディアッカが間抜けな声を上げる番だった。
その勢いにたじろぎながらも、アスランはどうにか変わらない口調を維持した。
「だってそうだろう?俺とキラがどうなろうと、お前らには関係ない話しじゃないか」
「―――それは…また、極論ですね」
疑問は普段の彼らを知るアスランからすれば至極尤もなもので、珍しくニコルが返事に窮した。本当はただ純粋に二人をくっつけてやろうとしているだけなのだが、それを認めるのは照れ臭い。というか癪だ。一体誰に対してプライドを保とうとしているのかはニコル自身にも分からないけれど、腹黒さで名を馳せる自分が、何のメリットもなく応援したいと思っている事実を知られるのは抵抗があった。
前途多難な恋人たちに力を貸してやろうという気持ちが芽生え始めていたディアッカは、そんなニコルの心理が手に取るように分かって、やれやれとばかりに頭を掻いた。
「ま~乗り掛かった船ってことでいーじゃん。お前らも協力者がいた方が心強いだろ?」
「それは、そうだが…。ディアッカ、お前だって面倒ごとにわざわざ顔を突っ込むのを嫌がるじゃないか」
(だからその信条に反してまでも、お前らに協力したいんだって、言わなきゃ分からないのか!?)
どいつもこいつも素直じゃなくて苛々する。もう本当に面倒くさくて、いっそ一抜けしてしまおうかと脳裏を過るが、出来はしない自分もよく分かっていた。ただわざわざ口に出して言ってやるほど、お人好しではないだけだ。
アスランとキラをしょうがないお子様だと思いながらも、ニコルとディアッカだって結構子供なのである。
「あーだからそこんとこはいいから!ウダウダ言ってねーで、まずはニコルの策ってやつを黙って聞け!!」
「は、はい!」
誤魔化す為にわざと大声を出したディアッカに驚いて、キラが殆ど反射で姿勢を正して聞く体制に変わる。
流石にアスランは胡乱な目をしたが、結局はキラに倣っておとなしくなった。
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