拒絶
・
◇◇◇◇
(嘘つき~~っ!!)
合コン会場はリーズナブルだけがウリの、雑多な居酒屋だった。懐事情の厳しい学生ご用達といっても差し支えないだろう。こういう店はキラは当然初めてだが、値段が安い代わりに味に期待も持てそうにない。だが奢りだという夕食に文句などあろうはずもなく、キラは賑やか過ぎる店内の一角に勧められるまま腰を下ろした。実家は誰にも知られたくないくらい凄いが、キラがそこで育ったことはない。記憶に残る母の手料理はまずくはなかったと思っているものの、とりたてて美食家というわけでもなく、至って標準的な舌の持ち主なのだ。
だから味に関しては文句はない。だがしかし何故自分はこれほどまでに女の子に囲まれているのだろうか。
仮にも合コンである以上、それなりに出会いを求める場のはずだ。そのくらいの知識はキラにだってあった。にも関わらず本来なら女性陣を独り占めにされてクサって当然の男たちまで、妙に上機嫌なのはどういうことなのだろう。
考え込む間もなく、突然目の前に差し出された皿に意識を引き戻された。同時に彼女達の会話も頭に入ってくる。
「はいvVヤマトくん。これ美味しいわよ」
「え…あ・ありがと」
でも自分の食べる分くらい自分で取り分けるから、と言い掛けた言葉は一層甲高い声に遮られ、キラの口内で消えた。
「あ~ずるぅい~!抜け駆けは駄目だよ~」
「そーよ!ヤマトくんの可愛さはみんなの共有財産なんだからね~」
「でも今日の合コン、来てよかった~!ずっとヤマトくんって可愛いって思ってたんだけど、流石に声はかけられなくて。だからお知り合いになれて嬉しいよね!」
キラは全く見覚えがないが、どうやら女性陣は同じ大学の違う学部の面々らしい。会話から予想を立てている間にも、彼女達の話題は留まるところを知らないかのようだ。
「ねえねえ、属性は何だと思う?」
「小動物でしょ。髪が柔らかそうだから…ネコとか?」
「ウサギだよ!なんか怯えてる感じが似てる!」
「それもちっちゃいサイズのウサギね!」
(怯えているように見えるのは、きみたちの会話の勢いに圧されてるからですよ)
言葉は解っても理解は出来ない会話が、キラを挟んで囂しく続いていく。なんとなく恐ろしくて口を挟む気も隙もありはしないが、別段キラのリアクションを求めている空気でもなかった。
(つまり…僕は客寄せパンダってことか)
女の子たちを喜ばせるために用意されたサプライズプレゼントと同じだ。
他人から見ればキラの容姿は悪い方ではないらしい。実際は“悪くない”程度ではなくズバ抜けているのだが、容姿などキラの中での優先順位はかなり下のため、認識はその程度だった。しかも男に関わらず与えられる形容詞は常に「可愛い」で、正直あまり嬉しいものではない。どちらかといえばコンプレックスに近いものがある。背だって平均で、他人と比較する類いではないが、それなりに苦労している自分が、何故「可愛い」のか抵抗がない方がどうかしていると思う。
だがまんまと今回もそれを利用されたというのは間違いなさそうだ。
小さい動物を嫌いな女の子は少ない。それを用意し彼女らを喜ばせる。彼女たちにとってキラは愛玩動物と同じカテゴリーだから、散々愛でることはあっても、男たちのライバルになることはない。ペットに嫉妬する馬鹿はいないから、完全な安全パイなのだ。
やっと友人に上手くハメられたのだと気付いたが、さりとてキラの方も女の子たちにそういう気持ちを向けられても正直困る。
(そっか。一食分浮かそうとしただけだし。別にいいのか、これで)
女の子たちがあれもこれもと次々に取り分けてくれる料理や飲み物を、適当に会話に相づちをうちながら、開き直ったキラは遠慮なく箸をつけることにした。
・
◇◇◇◇
(嘘つき~~っ!!)
合コン会場はリーズナブルだけがウリの、雑多な居酒屋だった。懐事情の厳しい学生ご用達といっても差し支えないだろう。こういう店はキラは当然初めてだが、値段が安い代わりに味に期待も持てそうにない。だが奢りだという夕食に文句などあろうはずもなく、キラは賑やか過ぎる店内の一角に勧められるまま腰を下ろした。実家は誰にも知られたくないくらい凄いが、キラがそこで育ったことはない。記憶に残る母の手料理はまずくはなかったと思っているものの、とりたてて美食家というわけでもなく、至って標準的な舌の持ち主なのだ。
だから味に関しては文句はない。だがしかし何故自分はこれほどまでに女の子に囲まれているのだろうか。
仮にも合コンである以上、それなりに出会いを求める場のはずだ。そのくらいの知識はキラにだってあった。にも関わらず本来なら女性陣を独り占めにされてクサって当然の男たちまで、妙に上機嫌なのはどういうことなのだろう。
考え込む間もなく、突然目の前に差し出された皿に意識を引き戻された。同時に彼女達の会話も頭に入ってくる。
「はいvVヤマトくん。これ美味しいわよ」
「え…あ・ありがと」
でも自分の食べる分くらい自分で取り分けるから、と言い掛けた言葉は一層甲高い声に遮られ、キラの口内で消えた。
「あ~ずるぅい~!抜け駆けは駄目だよ~」
「そーよ!ヤマトくんの可愛さはみんなの共有財産なんだからね~」
「でも今日の合コン、来てよかった~!ずっとヤマトくんって可愛いって思ってたんだけど、流石に声はかけられなくて。だからお知り合いになれて嬉しいよね!」
キラは全く見覚えがないが、どうやら女性陣は同じ大学の違う学部の面々らしい。会話から予想を立てている間にも、彼女達の話題は留まるところを知らないかのようだ。
「ねえねえ、属性は何だと思う?」
「小動物でしょ。髪が柔らかそうだから…ネコとか?」
「ウサギだよ!なんか怯えてる感じが似てる!」
「それもちっちゃいサイズのウサギね!」
(怯えているように見えるのは、きみたちの会話の勢いに圧されてるからですよ)
言葉は解っても理解は出来ない会話が、キラを挟んで囂しく続いていく。なんとなく恐ろしくて口を挟む気も隙もありはしないが、別段キラのリアクションを求めている空気でもなかった。
(つまり…僕は客寄せパンダってことか)
女の子たちを喜ばせるために用意されたサプライズプレゼントと同じだ。
他人から見ればキラの容姿は悪い方ではないらしい。実際は“悪くない”程度ではなくズバ抜けているのだが、容姿などキラの中での優先順位はかなり下のため、認識はその程度だった。しかも男に関わらず与えられる形容詞は常に「可愛い」で、正直あまり嬉しいものではない。どちらかといえばコンプレックスに近いものがある。背だって平均で、他人と比較する類いではないが、それなりに苦労している自分が、何故「可愛い」のか抵抗がない方がどうかしていると思う。
だがまんまと今回もそれを利用されたというのは間違いなさそうだ。
小さい動物を嫌いな女の子は少ない。それを用意し彼女らを喜ばせる。彼女たちにとってキラは愛玩動物と同じカテゴリーだから、散々愛でることはあっても、男たちのライバルになることはない。ペットに嫉妬する馬鹿はいないから、完全な安全パイなのだ。
やっと友人に上手くハメられたのだと気付いたが、さりとてキラの方も女の子たちにそういう気持ちを向けられても正直困る。
(そっか。一食分浮かそうとしただけだし。別にいいのか、これで)
女の子たちがあれもこれもと次々に取り分けてくれる料理や飲み物を、適当に会話に相づちをうちながら、開き直ったキラは遠慮なく箸をつけることにした。
・