拒絶




(駄目だ!)
鮮やかな真昼の星が脳裏に蘇りそうになって、キラは断ち切るように目を固く瞑った。

大事な大事なキラだけの星。
でももう決して手の届かない、遠い所へ行ってしまった。
確かに捕まえたと思った。
そっと掌に閉じ込めて、誰にも見せたくなかったのに。

まさかただの勘違いだったなんて。



「な?急な話だしさ、ヤマトから金取ろうなんて思ってないよ。ただ座ってメシ食ってるだけでいいからさー。頼むよ~」
キラの落ちかけた気持ちになどまるで気付かない友人は、よっぽど困っていたのか、ついにキラを拝むようにして縋り始めた。
自分など参加したところで場を白けさせるだけなのは明白なのに、こんなに必死で勧誘してくるのは、合コンとはそれほどまでに頭数が重要なウェイトを占めるものなのかと思う。会話に柔軟に加わったり愛想を振り撒いたり、そういう高等なスキルの持ち合わせは皆無だが、タダ飯を食べるだけでいいと言うならキラも譲れないわけではなかった。そもそも普段のキラを知っているこの友人が、今さらそんなものを求めているとも思い難い。彼は本当に頭数を揃えるのに難儀しているのだろう。

更にキラ自身が賑やかな場所に居るれば気も紛れるかもしれない…などと、らしくないことを考え始めていた。流石にこの有り得ない思考には、自分が自覚している以上に参っているらしいと、自嘲するしかなかったのだが。


「…分かった。行くよ」
散々迷って、結局押しに負けたカタチになった承諾を、友人はキラが戸惑うくらい異常に顔を輝かせて喜んだ。
「ぅおっしゃあ!じゃ早速行こうぜ!!」
言質を取ったとばかりに再び腕を掴まれて、ぐいぐいと引っ張られる。余りの迫力にキラは軽々しく誘いに乗ってしまったことを早くも後悔し、慌てた。
「あの――、確認しとくけど!僕って単なる数あわせ、でいいんだよね!?」
「もちろん!」
今にも鼻歌が飛び出しそうなおかしなテンションで太鼓判を捺されても…と顔を引きつらせたキラだが、最早撤回しても聞き遂げられそうにない。


斯くして殆ど引き摺られるように歩きながら、つくづく自分には余計なお節介など向いてないと痛感した。
(だいたい……人の心配なんて出来る立場じゃないのに)
無自覚ではあったが人恋しかったのかもしれない。
今度こそ独りで生きて行かなければと誓った傍からこんな気の弱いことでどうすると、ひとしきり反省するキラであった。


一方、同じ学生でしかないその友人が、メリットなしでキラにご飯を奢ってくれるなんて絶対にない。当然そこにはれっきとした損得計算が働いていたのだが、一般的な学生同士の付き合いなど経験のないキラに、分かれという方が無理なハナシである。薄い笑顔を貼りつけた本心を見せない関係では、同年代の人間と外食などという流れにはならず、これが殆ど初めてなのだ。唯一の例外はアスランだったのだが、支払いは全て彼であり、それを実に自然にやってのけるのだから参考になどなるはずもなく、キラが“誘った方が奢るもの”だと間違った常識を身に付けたのも無理からぬ状況だった。
従ってこうもコロリと友人の甘言に騙されてしまったわけだが、その原因の一端はアスランにもあるのだ。

キラは知らず知らずの内にアスランの影響を強く受けていた。


独りで生きようと決めた心をよすがに、何とか平静を保っているだけのキラが、そんな自分に気付いてしまった時。



待ち受けるものは一体何だろうか。




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