拒絶




同時に自分が持っていた優越感が、とても薄っぺらいものだと気付かされた。今の自分はただ単に父が後継者として遇してくれるが故に、辛うじて成立している頼りないものだ。カガリ自身の力ではない。
不遇を覆えそうと独りで懸命に立とうとしているキラが、本人に自覚があるかどうかは知らないが、それを成功させようとしているキラが憎らしかった。

そう。ずっと憎らしかったのに。


カガリにないものを沢山持ちながら、キラはあろうことかアスランを譲る気はないと逆らってきた。
だからカガリはどれだけ努力しようともキラが持ち得ることはない“アスハ家次期当主の肩書き”を使って、半ば強引にアスランを奪い取ってやった。キラに自分の立場を解らせてやるためにも必要だと思った。
結果はどうだ。アスランはカガリを選び、さぞかしキラは打ち拉がれたことだろう。
キラが悪いのだ。たかが妾腹の分際で自分に歯向かうなど身の程知らずもいいところだったのだから。いいザマだ。


「…―――ね、カガリさま?」
暗い考えに沈んでいたカガリは、周囲の級友の話を全く聞いてなかったため、急に同意を振られて些か慌てた。
「あ、悪い。なに?」
しかし彼女らはまるで気分を害した風もなく「聞いてませんでしたの?」と笑って同じ言葉を繰り返してくれる。
「こう言ってしまうのも失礼ですけれど…あんな素敵な方がお相手じゃ、ユウナさまはどうしても霞んでしまいますわよね」
「あ~…まぁそうだな」
忘れていたわけではないが、ザラ家の承諾がなければ、本来カガリが婚約するのはユウナだった。生まれながらに決められていた“仮の許婚者”というやつだ。良家のお嬢様にはありがちな相手で、適齢期になりお互いに異存がなければそのまま結婚するのが慣例だ。無論群がる級友たちにの殆ども、こういった家同士が決めた許婚者候補がいて、ほぼ100%の確率で嫁いで行くのだろう。
手の中の玉のように大切に育てられたお嬢様だ。親の決定に逆らう意志などハナから存在しないし、他の男を選ぶほど出会う機会もないが、それでもカガリの境遇には憧れずにはいられないらしい。
「素敵な殿方が迎えに来てくださるなんて…まるで物語のようですわね」
頬を染める級友たちは、姫を迎えに来る白馬の王子の童話にでも準えているのだろう。いい年をして馬鹿馬鹿しいと嘲る傍ら、全く的外れでもないのかもしれないと思う。家柄の違いもキラの妨害も、アスランを手に入れてしまった今では、気持ちを盛り上げるため必要なイベントだったのだ。

褒めそやされ羨ましがられて、一旦は目障りな弟を思い出し降下しかかった機嫌も、すっかり浮上したカガリだった。




◇◇◇◇


一回も呼出し音が鳴ることなく「お客様のおかけになった――」と最早馴染んでしまっだガイダンスに切り替わって、アスランは力任せに携帯を壁へと投げつけた。無残にもバラバラになったが、別に困りはしない。
思い出したくもないあの“婚約披露パーティ”のあと、手元に戻された携帯からは既に綺麗さっぱりメモリーが消去されていたからだ。
その他大勢の女たちの番号などなくても問題ないし、よくツルむ連中の番号とアドレスくらいは頭に入っている。

無論たった一人の特別な相手のそれも。




カガリとの婚約を磐石なものにしたいがためだろう、パトリックに政財界の重鎮の元へと引っ張り回される日々が暫く続いた。表立って逆らえないアスランはその合間を縫い、何とかキラに連絡を取ろうと電話をかけ続けた。
だがパーティ当日からこちら、ずっと電源は切られたままだった。度重なるアスハ家からの誘いを躱しつつ、繋がらない電話にとうとうアスランの堪忍袋の尾が切れ、壁に投げつけたというわけだ。




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