拒絶
・
友人たちはギョッとしたようだったが、新たに登場した二人はまるで当たり前のようにマイペースな会話を続行している。
「ついこの間も見ず知らずの女性にちょっかい出して、あんなにモメたばかりなのに…。懲りるということを知らないんですか?それともアタマ空っぽだから、もう忘れちゃったとか?あぁ!ひょっとして女生という女性に手当たり次第手を出して、うっかり病気をもらっちゃったとかいうオチで、僕を思い切り笑わせてくれるつもりなんですね。それは楽しみです」
言葉遣いが丁寧なだけに、辛辣さに凄みすら感じる。しかし言われた男は堪えた様子もなく、相変わらずヘラヘラと笑って応酬した。
「お前、見縊るのも大概にしろよ!俺はなぁ女なら誰でもいいってわけじゃねー。ちゃんと可愛い女の子限定だ!」
「へえ。だってこの人、下向いてるじゃないですか。顔が見えなくてどうして可愛いなんて分かるんです?」
ひたすらマイペースで続く会話に着いていけないでいると、「じゃあ証明してやるよ」という言葉と共に、キラは突然腕を捕まれて無理矢理引き摺り立たされた。
「ぅ・あぅっ!!」
短く上がった悲鳴など、最初から聞こえなかった方向で処理される。自分の意見を認めさせる為とはいえ、今しがた酔い潰れて心配した相手に、いくらなんでもこれは酷い。
「俺のアンテナは可愛い子にしか反応しないんだよ!ほーら見ろ!滅茶苦茶可愛いだろ!?」
「駄目ですよ。女性はもっと優しく扱わないと。まあ、確かに可愛らしい方のようですが……、あれ?」
対するもう一人も一応男の暴挙を諫めはするものの、口調には全く心が籠もっていない。それどころか面白そうにキラの顔を覗き込み、だがすぐに何かに気付いたようにその目が見開かれた。
「ん?なんだ?」
「ああ、すいません。見ず知らずと決め付けたのは僕の間違いのようです。訂正してお詫びしときますね」
にっこり笑った子供のような相貌に、訂正のポイントはそこじゃなくてまず性別だろう!とキラは内心(口を開くと吐きそうだった)で叫んだが、固まっている友人はすっかり引いてしまっていて、助けてくれる気配すら伺えない。
孤立無援の中、いかにも冷酷な二人組に間近から顔を覗き込まれ、せめて抵抗の意志を伝えようと、キラは精一杯彼らを睨み付けた。
「…………?」
そうして強かに酔っていたキラも、腕を掴んでいる男の顔に見覚えがあることに、漸く気付いたのである。
「あ!あーっ!お前、アスランの元許婚者じゃんか!!」
(この人は――!!)
やがて上がった男の大声と共に、やっと拘束を外されたキラは、もういっそ殺してくれとばかりに、再びその場に力なくしゃがみ込んだのだった。
(何で…どうしてディアッカさんが?)
この辺りは学生たちがよく利用するリーズナブルな居酒屋が軒を連ねている。しかし実はその先に、高級なバーやラウンジがあることまでは、殆ど初めて来たキラが知るはずもなかった。
完全に脱力してしまったキラには目もくれず、笑顔の男はチラリとキラの友人たちへと視線を送った。
「と、いうわけで。僕らこの方と知り合いですから、この場はお引き受け致します」
「えっ!?でも――」
柔らかい物腰に隠されてはいるが、微笑んだ目は反論は認めないとばかりに、少しも笑っていない。反射的に反論してしまった友人は、それだけで口を噤まざるを得ないほどだった。
・
友人たちはギョッとしたようだったが、新たに登場した二人はまるで当たり前のようにマイペースな会話を続行している。
「ついこの間も見ず知らずの女性にちょっかい出して、あんなにモメたばかりなのに…。懲りるということを知らないんですか?それともアタマ空っぽだから、もう忘れちゃったとか?あぁ!ひょっとして女生という女性に手当たり次第手を出して、うっかり病気をもらっちゃったとかいうオチで、僕を思い切り笑わせてくれるつもりなんですね。それは楽しみです」
言葉遣いが丁寧なだけに、辛辣さに凄みすら感じる。しかし言われた男は堪えた様子もなく、相変わらずヘラヘラと笑って応酬した。
「お前、見縊るのも大概にしろよ!俺はなぁ女なら誰でもいいってわけじゃねー。ちゃんと可愛い女の子限定だ!」
「へえ。だってこの人、下向いてるじゃないですか。顔が見えなくてどうして可愛いなんて分かるんです?」
ひたすらマイペースで続く会話に着いていけないでいると、「じゃあ証明してやるよ」という言葉と共に、キラは突然腕を捕まれて無理矢理引き摺り立たされた。
「ぅ・あぅっ!!」
短く上がった悲鳴など、最初から聞こえなかった方向で処理される。自分の意見を認めさせる為とはいえ、今しがた酔い潰れて心配した相手に、いくらなんでもこれは酷い。
「俺のアンテナは可愛い子にしか反応しないんだよ!ほーら見ろ!滅茶苦茶可愛いだろ!?」
「駄目ですよ。女性はもっと優しく扱わないと。まあ、確かに可愛らしい方のようですが……、あれ?」
対するもう一人も一応男の暴挙を諫めはするものの、口調には全く心が籠もっていない。それどころか面白そうにキラの顔を覗き込み、だがすぐに何かに気付いたようにその目が見開かれた。
「ん?なんだ?」
「ああ、すいません。見ず知らずと決め付けたのは僕の間違いのようです。訂正してお詫びしときますね」
にっこり笑った子供のような相貌に、訂正のポイントはそこじゃなくてまず性別だろう!とキラは内心(口を開くと吐きそうだった)で叫んだが、固まっている友人はすっかり引いてしまっていて、助けてくれる気配すら伺えない。
孤立無援の中、いかにも冷酷な二人組に間近から顔を覗き込まれ、せめて抵抗の意志を伝えようと、キラは精一杯彼らを睨み付けた。
「…………?」
そうして強かに酔っていたキラも、腕を掴んでいる男の顔に見覚えがあることに、漸く気付いたのである。
「あ!あーっ!お前、アスランの元許婚者じゃんか!!」
(この人は――!!)
やがて上がった男の大声と共に、やっと拘束を外されたキラは、もういっそ殺してくれとばかりに、再びその場に力なくしゃがみ込んだのだった。
(何で…どうしてディアッカさんが?)
この辺りは学生たちがよく利用するリーズナブルな居酒屋が軒を連ねている。しかし実はその先に、高級なバーやラウンジがあることまでは、殆ど初めて来たキラが知るはずもなかった。
完全に脱力してしまったキラには目もくれず、笑顔の男はチラリとキラの友人たちへと視線を送った。
「と、いうわけで。僕らこの方と知り合いですから、この場はお引き受け致します」
「えっ!?でも――」
柔らかい物腰に隠されてはいるが、微笑んだ目は反論は認めないとばかりに、少しも笑っていない。反射的に反論してしまった友人は、それだけで口を噤まざるを得ないほどだった。
・