拒絶




◇◇◇◇


「あ~あ!大丈夫か?ヤマト」
合コンの一次会が終わる頃には、キラは立派な酔っ払いと化していた。
まだ20歳になってないのだからアルコールなど殆ど口にしたことがないのは無理もないが、実情は大学生になった時点で解禁のようなものだ。みんな軽いものなら飲んだ経験くらいは持っている。だが飲みに行くような友人のいないキラにとってはほぼ初めてのことだった。当然許容量など知るわけはないし、自棄になっていたから止まらなかった。しかも口当たりがいいからと甘いカクテルばかり選んでいたのだ。そういうものはおしなべてアルコール度数の高い洋酒がベースになっていたりする。
「……うん。ら・いじょーぶ…」
斯くして立派な酔っ払いから出る言葉はお決まりの台詞。呂律はかなり怪しいし、足元も覚束ない。
時間制限があったため、追い出された居酒屋の店先で、キラはとうとう立っていられなくなり、蹲ってしまった。判を捺したような酔っ払いの末路である。
「冷たいお水、買って来た」
参加していた女の子の一人が、ペットボトルを差し出してくれたが、それすら中々手に取れない始末であった。見兼ねた友人が代わりに受け取って、しっかりと握らせてくれる。
「飲めよ。ちょっとでもアルコール濃度を薄めた方がいい」
「う~‥ん…。ありがとぅ」
身体はいうことを聞かなくても、頭はしっかりしていたから、早くどうにかしないととは思う。だが少しでも身動いだだけで嘔吐感が込み上げてくるのでは、如何ともし難い。合コンは終始キラをオモチャにして盛り上がったのだが、いつの間にか何組かのカップルも出来ていたようで、この後、また二次会三次会と続いていくのだろう。しかし流石にキラを放置して行くわけにもいかず、困り果てている雰囲気がビシバシと伝わって来た。
「ごめん…いいよ、ここにほうっれおいれ……」
「だってさぁ」
「ほんと、へいきらから…おんなのこらないんらし」
「困ったな…」
友人はバリバリと頭を掻いた。

周囲の顔色を読んで生きてきたキラにとって、むざむざ自分から招いたにせよ、この状況は針のムシロ同然だった。いっそ放置された方が余程楽だ。独りなら無理に平気なフリをしなくてもいいし、それでなくても気分は最悪なのに、更に周囲に気を遣う必要もない。飲み慣れてないとはいえ若いのだから、暫くそこらに寝転がっていれば、アルコールもその内分解されるだろう。
しかしキラを誘った友人は他のメンバーに目配せすると、再びキラの傍に身を屈めた。彼は彼で無理矢理連れてきた責任を感じているのに違いない。
おとなしい(実際は他人と交流を持つのを避けているだけだが)自分が、こんなに酔っ払うなんてまさかの事態だっただろうし、迷惑をかけてしまって申し訳ないとキラは思った。
他のメンバーは先程の目配せでゾロゾロと、おそらくは次の会場へ移動を始めたのだが、見ればその友人ともう一人、女の子が残っている。その子の手前、冷たく見捨てて立ち去るのも憚られる、というのも有るのだろう。よく気が付く、優しい女の子だった。途中からオモチャにされるキラをさりげなく庇ってくれたりもした。しっかりした一面も垣間見せていたから、ややお調子者の友人にはいいお相手だろう。

(てか、人の心配をしている場合じゃなよね)
折角カノジョが出来そうな友人の邪魔はしたくない。それにこんな所でいつまでも屯ろしていたら、明らかに店への営業妨害だ。
とにもかくにもこの膠着状態を打破するには、少しでも自力で動けるのだと証明するのが手っ取り早いと、キラが膝に力を込めた時だった。


「か~のじょ!潰れちゃったの?だぁいじょ~ぶ~?」
「あーあ。また貴方の悪い癖ですか。ほんと見境いのない」
突然、第三者の声が割り込んで、更に連れと思われるもう一人が、呆れた様子で突っ込みを入れながら現れたのである。




14/16ページ
スキ