拒絶
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一方で久々にいつもの友人たちとツルむのも悪くないなとも思う。目的は暇潰しだったとはいえ、毎日のように顔を合わせていた連中なのだ。寂しいといえば語弊があるが、なんだか物足りない気がしないでもない。
それに結局あの夜、アスランはニコルとディアッカに、カガリとの婚約を承諾した裏事情を明かさなかった。場所柄、どこで聞き耳を立てられているか分かったものではなかったし、何よりあの時はとてもそんな気分にはなれなかったのだ。それに「話してくれ」と言ったからには、ニコルも凡その察しはついているはずだ。
少しは気持ちの整理もついた今なら、そこらの事情を打ち明けて、完璧にキラに避けられている現状打破のため、知恵を借りるのもいいかもしれない。
取り分けイザークには、あの夜キラと一緒だったのかをハッキリさせておく必要があった。
(―――仕方ない。先にイザークに会ってみるか)
まず一番傷付けてしまったキラに、全てを話すべきだと思った。だからこそキラに比べれば、遥かに会うのが簡単なイザークを後回しにしていたのだ。が、こうして予定外に空いてしまった時間を無駄にするのは如何にも勿体ない。
他人に対し警戒心の塊であるキラが、ショックを受けていたとはいえ、そう易々と他の誰かに靡くなどとはアスランだって思ってない。だがイザークがキラをフォローするためだけにパーティを中座したのだとなると、どういう意図があってのことかを問い質しておく必要があった。
「…………だ…」
不意に耳を掠めたカガリの声に、思考の海に頭から沈み込んでいたアスランは、一旦意識を浮上させた。どうやらやっとまともに話をする気になってくれたようで一安心だ。イザークに先に会おうと目的を設定した以上、お嬢様の気紛れに付き合う時間は一秒でも惜しい。
さっさと用件を言ってもらって片付けて、解放されたい。
「失礼、聞き逃した。悪いがもう一度――」
礼を尽くしたアスランの謝罪は、カガリお嬢様の崇高な舌打ちで遮られた。アスランの方もそんな謝罪は波風立てないための形だけのものだから、別に腹も立たなかった。
顔色ひとつ変わらないアスランだったが、対するカガリは顔を真っ赤にして、射殺すかのような視線で睨み付けた。本気で意図の伝わってないアスランに焦れたのだ。
「だから!お互いによく知り合うには、まずこうやって会うのが一番だって聞いたんだよ!!」
「………はぁ?」
半ばヤケクソのように宣言したカガリは、照れくささも手伝って、次々にまくし立てた。
「ほら、だってさ、私らって一回キラのバイト先をひやかしに行ったくらいで、まともに二人で話したことさえないだろう?そこのところを大学の連中に話したら、みんなそんなもんなんだって言うんだ。で、嫁ぐまでに何回かこうして会って、お互いよく知り合うのが常道だって教えてくれたんだ」
わざわざ呼び立てられたのは、そんなつまらない理由からだったのか、とアスランが辟易とする。
一般常識に照らし合わせれば、その大学の連中とやらもかなり特殊なご意見なのだが、カガリの周囲の人間なら似たり寄ったりの境遇なのだろう。とはいえアスランも一般常識なんて無縁な恋愛遍歴ではあるし、敢えて異論を唱えてまで訂正してやる義理もない。ましてそんなオママゴトに律儀に付き合わされるなんて真っ平ごめんだった。
キラではなくてカガリを選べとねじ込まれたからそうしただけのこと。それで充分だろう。
この上カガリの機嫌を取ってもアスランには何のメリットもないし、その必要も皆無だと思った。
アスランにとってカガリなど“興味がない”の一言に尽きる存在でしかないのだから。
「相互理解に意味はあるのか?」
だからいつものポーカーフェイスで、アスランはバッサリと切り捨てた。想定していたどのリアクションともかけ離れ過ぎていて、カガリは一瞬にして思考停止に陥る。そこへ容赦なくアスランはだめ押して来た。
「そんなもの必要ないだろう。俺は確かに婚約を受諾したが、それだけだからな」
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一方で久々にいつもの友人たちとツルむのも悪くないなとも思う。目的は暇潰しだったとはいえ、毎日のように顔を合わせていた連中なのだ。寂しいといえば語弊があるが、なんだか物足りない気がしないでもない。
それに結局あの夜、アスランはニコルとディアッカに、カガリとの婚約を承諾した裏事情を明かさなかった。場所柄、どこで聞き耳を立てられているか分かったものではなかったし、何よりあの時はとてもそんな気分にはなれなかったのだ。それに「話してくれ」と言ったからには、ニコルも凡その察しはついているはずだ。
少しは気持ちの整理もついた今なら、そこらの事情を打ち明けて、完璧にキラに避けられている現状打破のため、知恵を借りるのもいいかもしれない。
取り分けイザークには、あの夜キラと一緒だったのかをハッキリさせておく必要があった。
(―――仕方ない。先にイザークに会ってみるか)
まず一番傷付けてしまったキラに、全てを話すべきだと思った。だからこそキラに比べれば、遥かに会うのが簡単なイザークを後回しにしていたのだ。が、こうして予定外に空いてしまった時間を無駄にするのは如何にも勿体ない。
他人に対し警戒心の塊であるキラが、ショックを受けていたとはいえ、そう易々と他の誰かに靡くなどとはアスランだって思ってない。だがイザークがキラをフォローするためだけにパーティを中座したのだとなると、どういう意図があってのことかを問い質しておく必要があった。
「…………だ…」
不意に耳を掠めたカガリの声に、思考の海に頭から沈み込んでいたアスランは、一旦意識を浮上させた。どうやらやっとまともに話をする気になってくれたようで一安心だ。イザークに先に会おうと目的を設定した以上、お嬢様の気紛れに付き合う時間は一秒でも惜しい。
さっさと用件を言ってもらって片付けて、解放されたい。
「失礼、聞き逃した。悪いがもう一度――」
礼を尽くしたアスランの謝罪は、カガリお嬢様の崇高な舌打ちで遮られた。アスランの方もそんな謝罪は波風立てないための形だけのものだから、別に腹も立たなかった。
顔色ひとつ変わらないアスランだったが、対するカガリは顔を真っ赤にして、射殺すかのような視線で睨み付けた。本気で意図の伝わってないアスランに焦れたのだ。
「だから!お互いによく知り合うには、まずこうやって会うのが一番だって聞いたんだよ!!」
「………はぁ?」
半ばヤケクソのように宣言したカガリは、照れくささも手伝って、次々にまくし立てた。
「ほら、だってさ、私らって一回キラのバイト先をひやかしに行ったくらいで、まともに二人で話したことさえないだろう?そこのところを大学の連中に話したら、みんなそんなもんなんだって言うんだ。で、嫁ぐまでに何回かこうして会って、お互いよく知り合うのが常道だって教えてくれたんだ」
わざわざ呼び立てられたのは、そんなつまらない理由からだったのか、とアスランが辟易とする。
一般常識に照らし合わせれば、その大学の連中とやらもかなり特殊なご意見なのだが、カガリの周囲の人間なら似たり寄ったりの境遇なのだろう。とはいえアスランも一般常識なんて無縁な恋愛遍歴ではあるし、敢えて異論を唱えてまで訂正してやる義理もない。ましてそんなオママゴトに律儀に付き合わされるなんて真っ平ごめんだった。
キラではなくてカガリを選べとねじ込まれたからそうしただけのこと。それで充分だろう。
この上カガリの機嫌を取ってもアスランには何のメリットもないし、その必要も皆無だと思った。
アスランにとってカガリなど“興味がない”の一言に尽きる存在でしかないのだから。
「相互理解に意味はあるのか?」
だからいつものポーカーフェイスで、アスランはバッサリと切り捨てた。想定していたどのリアクションともかけ離れ過ぎていて、カガリは一瞬にして思考停止に陥る。そこへ容赦なくアスランはだめ押して来た。
「そんなもの必要ないだろう。俺は確かに婚約を受諾したが、それだけだからな」
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