拒絶
・
アスランがあからさまに眉を寄せ、不審がっているのに気付いたのだろう。何かを振り切るように小さくプルプルと首を左右に振ると、カガリは漸く歩を進めた。
「ひ・久し振りだな」
軽く手を上げて飛び出したのは、聞きようによっては嫌味にも取れる挨拶だった。確かにあのパーティの夜以降、顔すら合わせていないのだから「何で放ったらかしにするのだ」と、恨み言のひとつくらい垂れたとしても然るべき状況かもしれない。
しかしカガリは“歯に衣着せぬ”を実践で表しているような人間だ。アスランの薄情さに拗ねているのなら、こんな回りくどい言い方はしないだろう。ハッキリキッパリ罵倒したはずだ。
裏表がないというのは、一般的には好感が持てる性格と受け取られる。それはカガリの美点だと思う。
ただアスランが好きになれないだけで。
「お元気そうで何よりだ」
お決まりのポーカーフェイスで、社交辞令の挨拶を返したまでだが、カガリはそれはそれは嬉しそうに破顔した。
「おう!お前もな!」
カガリはみるみる内にいつもの元気を取り戻し、足取りも軽くツカツカと上座へ向かうと、ソファにドスンと腰を下ろした。無論アスランに勧めるでもなく、さりとて要件を口にするわけでもない。暫く待ってみても、ただにこにこと笑って見上げてくるだけだった。
一方意味の分からないアスランにとっては、ただの気まずい沈黙でしかない。というか、時間の無駄だと苛々してくる。そもそもキラがここに居ないと分かれば、アスランに滞在する理由はないのである。
「一体何の気紛れか知らないが、用がないなら帰らせてもらう」
とうとう痺れを切らせたアスランが、今にも身を翻そうとして初めて、焦ったカガリが口を開いた。
「え!?ま・待てよ!私はこういうものだと聞いたんだが、違うのか!?」
「?何の話だ?」
目を眇めた、まるで睨みつけるかのような冷たいアスランの視線に、カガリは再びウジウジした仕草に戻り、あーだとかうーだとか意味を成さない唸り声をあげ始める。
これでは堂々巡りだと増々うんざりしたアスランは、気分を変えるために、この後の予定を組み立てることにした。このままでは辛辣な嫌味を言ってしまうか、さもなければ怒鳴りつけてしまいそうだったのだ。完全アウェイであるアスハ家でそういう事態は避けたかったし、他のことを考えなければならない程度には苛立っていた。
(さて‥と)
お首にも出さないポーカーフェイスで、意識を無理矢理他へと向ける。
まず一番に浮かぶのはやはりキラの顔だった。しかし仮にキラがちゃんと大学に通っていたとしても、この時間では、既に帰宅してしまっているだろう。そのまま雲隠れされたらアスランにはお手上げだ。戻っても空振りに終わる確率の方が高い。
ならばこのまま家に戻り、課題でもやるのもいいかもしれない。
アスランの通う大学はキラのそれとは違い、同年代の交友を広めるのが主目的とする場所だ。然程勉学に熱心でもないため、謂わば顔を出すことに意味がある“大学”という名の社交場と化している。金さえ積めば入学も卒業も容易であることからも、それは裏付けられていて、実家が資産家だという理由だけで、実態はとんでもない馬鹿息子が通っていたりもするのだが、幸いアスランは生まれつき優秀な質であった。
それに父の後を継ぐのは既に確定しているのだから、経済学は身に付けておいて損はないという考えで一応勉強もするし、課題なども全てではなくても、必要とあらば提出するようにしている。
確かひとつ掘り下げれば為になりそうな課題があったのを思い出したのだ。
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アスランがあからさまに眉を寄せ、不審がっているのに気付いたのだろう。何かを振り切るように小さくプルプルと首を左右に振ると、カガリは漸く歩を進めた。
「ひ・久し振りだな」
軽く手を上げて飛び出したのは、聞きようによっては嫌味にも取れる挨拶だった。確かにあのパーティの夜以降、顔すら合わせていないのだから「何で放ったらかしにするのだ」と、恨み言のひとつくらい垂れたとしても然るべき状況かもしれない。
しかしカガリは“歯に衣着せぬ”を実践で表しているような人間だ。アスランの薄情さに拗ねているのなら、こんな回りくどい言い方はしないだろう。ハッキリキッパリ罵倒したはずだ。
裏表がないというのは、一般的には好感が持てる性格と受け取られる。それはカガリの美点だと思う。
ただアスランが好きになれないだけで。
「お元気そうで何よりだ」
お決まりのポーカーフェイスで、社交辞令の挨拶を返したまでだが、カガリはそれはそれは嬉しそうに破顔した。
「おう!お前もな!」
カガリはみるみる内にいつもの元気を取り戻し、足取りも軽くツカツカと上座へ向かうと、ソファにドスンと腰を下ろした。無論アスランに勧めるでもなく、さりとて要件を口にするわけでもない。暫く待ってみても、ただにこにこと笑って見上げてくるだけだった。
一方意味の分からないアスランにとっては、ただの気まずい沈黙でしかない。というか、時間の無駄だと苛々してくる。そもそもキラがここに居ないと分かれば、アスランに滞在する理由はないのである。
「一体何の気紛れか知らないが、用がないなら帰らせてもらう」
とうとう痺れを切らせたアスランが、今にも身を翻そうとして初めて、焦ったカガリが口を開いた。
「え!?ま・待てよ!私はこういうものだと聞いたんだが、違うのか!?」
「?何の話だ?」
目を眇めた、まるで睨みつけるかのような冷たいアスランの視線に、カガリは再びウジウジした仕草に戻り、あーだとかうーだとか意味を成さない唸り声をあげ始める。
これでは堂々巡りだと増々うんざりしたアスランは、気分を変えるために、この後の予定を組み立てることにした。このままでは辛辣な嫌味を言ってしまうか、さもなければ怒鳴りつけてしまいそうだったのだ。完全アウェイであるアスハ家でそういう事態は避けたかったし、他のことを考えなければならない程度には苛立っていた。
(さて‥と)
お首にも出さないポーカーフェイスで、意識を無理矢理他へと向ける。
まず一番に浮かぶのはやはりキラの顔だった。しかし仮にキラがちゃんと大学に通っていたとしても、この時間では、既に帰宅してしまっているだろう。そのまま雲隠れされたらアスランにはお手上げだ。戻っても空振りに終わる確率の方が高い。
ならばこのまま家に戻り、課題でもやるのもいいかもしれない。
アスランの通う大学はキラのそれとは違い、同年代の交友を広めるのが主目的とする場所だ。然程勉学に熱心でもないため、謂わば顔を出すことに意味がある“大学”という名の社交場と化している。金さえ積めば入学も卒業も容易であることからも、それは裏付けられていて、実家が資産家だという理由だけで、実態はとんでもない馬鹿息子が通っていたりもするのだが、幸いアスランは生まれつき優秀な質であった。
それに父の後を継ぐのは既に確定しているのだから、経済学は身に付けておいて損はないという考えで一応勉強もするし、課題なども全てではなくても、必要とあらば提出するようにしている。
確かひとつ掘り下げれば為になりそうな課題があったのを思い出したのだ。
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