拒絶
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「カガリさま、ご婚約が決まったのですってね」
「わたくしも父から聞きましたわ。先日の婚約披露パーティもそれはそれは盛大だったとか」
「名門アスハ家の直系のカガリさまと、財界きっての大富豪・ザラ家との、これ以上ない組み合わせですもの。日本中が祝福しましたわ、きっと」
「あ・ああ。ありがとう」
殆ど圧倒されるように目を見開いて、カガリは辛うじて礼を言った。
◇◇◇◇
カガリが普段は「水が合わない」と毛嫌いしている、お嬢様ばかりが通う女子大に顔を出したのは、アスランとの婚約披露パーティから三日後のことだった。名家であるアスハ家の後継者の婚約となれば、パーティに招待されたかの如何に関わらず、興味は尽きなかったらしい。育ちだけは掛け値なしに良いため、決して悪気はないのだが、他人の色恋を興味本位で噂し合うお嬢様たちの輪に、いつものカガリなら絶対入ろうとは思わない。
だが今回ばかりはハナシは別だった。
何せ話題の中心は自分自身で、しかも望んでいた相手との待ちに待った正式な婚約なのだから。
「それにしても流石カガリさまですわ。わたくし以前雑誌の記事で拝見したことがありますけど、アスランさまって容姿端麗で本当に素敵な方ですものね」
「しかも頭脳も明晰でいらっしゃるとか」
「羨ましいですわ~」
囀る同級生たちの甲高い声も、僅かばかりの嫉みも、今のカガリの気分を害する材料にはならない。カガリは首の後ろをバリバリと掻いて照れた風を装った。
「だが家同士の釣り合いが取れてなくてなー。結構もめたんだ」
などと意味もなく謙遜するフリで応じる自分を、我ながらゲンキンなものだとカガリは内心で舌を出した。
アスランを褒められれば褒められるほど嬉しい。みんなの羨望の眼差しが気持ちいい。そんな相手を手に入れたことが幸せで、何より彼を想うだけでソワソワと落ち着かなくなる。
恋をしているのだと改めて実感した。
(それにザラ家が成金なのは本当のことだしな)
アスハ家の後継者が20歳の誕生日までに正式に婚約をすることは、この女子大の学生なら皆知っている。それがこんな土壇場になってしまったのは無論別の理由のためであるが、興味本位の外野にまで馬鹿正直に話してやる必要はない。家柄の不釣り合いの所為にしておけば、余計な詮索を受けることもないだろう。
実際元は弟の婚約者だったなんてカガリにとっては面白くもない事実でしかない。しかも成金のザラ家に嫁ぐなど冗談でもごめんだと思っていたカガリは、最初この婚約を体よく弟に押し付けた。なのにその後、もう何のパーティだったかも忘れたが、会場で偶然アスランに会い、それから意識するようになった。
お世辞にもアスランと弟が上手くいっているようには見えなかったのをいいことに、所謂後出しジャンケン的に略奪したという経緯があったのだ。
そこのところはプライドにかけても周囲に知られたくなかった。
元よりザラ家の方が積極的にこの婚姻を望んだという動かせない事実もあるし、そこへちょっと捏造を加えれば、アスランが自分に惚れたと匂わせるのは容易い。どっちがどっちを追い掛けたかなんて、結婚してしまえば些末な問題になるに違いない。
それに弟のキラの存在はカガリの中で微妙だった。
キラが悪くないと頭では理解出来ても、父の妾腹の子というのはやはり気分が良い存在なわけがない。それが易々と国の最高学府に合格し、漏れ伝わるところによるとプログラミング能力は他に類をみないほどの天才だという。父がキラの面倒をみるようになっても、カガリが蔑ろにされることこそなかったが故に優位に立てていただけなのだ。
幸か不幸かカガリは明朗な質だから、これまであまり掘り下げて考えたことはなかった。キラも正面切って対立してくるような真似はしなかったから、意識をしなかっただけで、いざ事が起こると改めて優秀な弟が目障りだと感じずにはいられなかった。
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「カガリさま、ご婚約が決まったのですってね」
「わたくしも父から聞きましたわ。先日の婚約披露パーティもそれはそれは盛大だったとか」
「名門アスハ家の直系のカガリさまと、財界きっての大富豪・ザラ家との、これ以上ない組み合わせですもの。日本中が祝福しましたわ、きっと」
「あ・ああ。ありがとう」
殆ど圧倒されるように目を見開いて、カガリは辛うじて礼を言った。
◇◇◇◇
カガリが普段は「水が合わない」と毛嫌いしている、お嬢様ばかりが通う女子大に顔を出したのは、アスランとの婚約披露パーティから三日後のことだった。名家であるアスハ家の後継者の婚約となれば、パーティに招待されたかの如何に関わらず、興味は尽きなかったらしい。育ちだけは掛け値なしに良いため、決して悪気はないのだが、他人の色恋を興味本位で噂し合うお嬢様たちの輪に、いつものカガリなら絶対入ろうとは思わない。
だが今回ばかりはハナシは別だった。
何せ話題の中心は自分自身で、しかも望んでいた相手との待ちに待った正式な婚約なのだから。
「それにしても流石カガリさまですわ。わたくし以前雑誌の記事で拝見したことがありますけど、アスランさまって容姿端麗で本当に素敵な方ですものね」
「しかも頭脳も明晰でいらっしゃるとか」
「羨ましいですわ~」
囀る同級生たちの甲高い声も、僅かばかりの嫉みも、今のカガリの気分を害する材料にはならない。カガリは首の後ろをバリバリと掻いて照れた風を装った。
「だが家同士の釣り合いが取れてなくてなー。結構もめたんだ」
などと意味もなく謙遜するフリで応じる自分を、我ながらゲンキンなものだとカガリは内心で舌を出した。
アスランを褒められれば褒められるほど嬉しい。みんなの羨望の眼差しが気持ちいい。そんな相手を手に入れたことが幸せで、何より彼を想うだけでソワソワと落ち着かなくなる。
恋をしているのだと改めて実感した。
(それにザラ家が成金なのは本当のことだしな)
アスハ家の後継者が20歳の誕生日までに正式に婚約をすることは、この女子大の学生なら皆知っている。それがこんな土壇場になってしまったのは無論別の理由のためであるが、興味本位の外野にまで馬鹿正直に話してやる必要はない。家柄の不釣り合いの所為にしておけば、余計な詮索を受けることもないだろう。
実際元は弟の婚約者だったなんてカガリにとっては面白くもない事実でしかない。しかも成金のザラ家に嫁ぐなど冗談でもごめんだと思っていたカガリは、最初この婚約を体よく弟に押し付けた。なのにその後、もう何のパーティだったかも忘れたが、会場で偶然アスランに会い、それから意識するようになった。
お世辞にもアスランと弟が上手くいっているようには見えなかったのをいいことに、所謂後出しジャンケン的に略奪したという経緯があったのだ。
そこのところはプライドにかけても周囲に知られたくなかった。
元よりザラ家の方が積極的にこの婚姻を望んだという動かせない事実もあるし、そこへちょっと捏造を加えれば、アスランが自分に惚れたと匂わせるのは容易い。どっちがどっちを追い掛けたかなんて、結婚してしまえば些末な問題になるに違いない。
それに弟のキラの存在はカガリの中で微妙だった。
キラが悪くないと頭では理解出来ても、父の妾腹の子というのはやはり気分が良い存在なわけがない。それが易々と国の最高学府に合格し、漏れ伝わるところによるとプログラミング能力は他に類をみないほどの天才だという。父がキラの面倒をみるようになっても、カガリが蔑ろにされることこそなかったが故に優位に立てていただけなのだ。
幸か不幸かカガリは明朗な質だから、これまであまり掘り下げて考えたことはなかった。キラも正面切って対立してくるような真似はしなかったから、意識をしなかっただけで、いざ事が起こると改めて優秀な弟が目障りだと感じずにはいられなかった。
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