真相




キラが怯えるのにも構わずイザークの怒声は続く。
「もっと他にあるはずだろう!アスランに対する恨み言とか!!」
キラは心底意味が分からないとばかりにぎこちなく首を傾けた。
「え、だって…それを貴方にぶつけたところでどうにもならないし、貴方だってお門違いで迷惑もいいところでしょ?」
「!」
確かにその通りだった。これまでも男にフラれた女の恨み節など、聞くに耐えない醜いものだと例外なく切って捨ててきた。特にイザークは仲間内でもその傾向が顕著だったとは、言われるまでもなく自覚していたのに。
自分でも今回に限って何故こんな事態になってしまったのかまるで説明はつかないものの、差し出した手を振り払われっ放しになるのはそれはそれで癪に障るものだ。
「な・ならアスランとの仲を取り持つように働きかけて欲しいとか!」
「…―――貴方に?」
「お前から見ても俺がアスランと近しい人間だというくらいのことは分かるだろう?だったら存分に俺を利用してやろうとするだろ、普通!」
「しませんよ、そんなこと!!」
強い否定にイザークは口を噤むと同時に我に返った。
(俺は、なにを――)
先程頭を掠めた思考が一気に戻って来た。
キラが泣いている間、ずっと傍に居た所為か、いつの間にか助けてやりたいという気にさせられていた。そんな女の姿などこれまで飽きるほど見てきたというのに。そして諦め切れずにイザークに筋違いの要求を押し付けてくる女たちを、思い付く限りの酷い言葉で罵倒し、鼻で笑ってきた自分の姿。
老獪なニコルやフェミニストを語るディアッカならば、イザークと似たり寄ったりの内心だったとしても、泣く女を慰めるフリくらいはしてやるのだろうが、生憎自分にそんなスキルはないし、これから先身に付けようと思ったこともない。

たかが恋愛ごときで我を忘れて泣き喚くなど愚の骨頂だ。
散々みっともない姿を曝し、その挙げ句我儘でしかない要求まで押し付けるなどもっての他だ。




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