真相




彼はただ一人迷うことなく、誰よりも前を歩き続けるのだと、疑うことさえなかった。
孤高の王者なのだと決め付けていた。


ところが最近のアスランはそんなニコルの中のアスラン像を悉く裏切った。今目の前のアスランなどその最たるものである。それでも幻滅したとかのマイナスの感情がまるで湧かないのが自分でも不思議だった。
ずっと背中を見ているだけで、手の届かない王者だと思っていたアスランが、その歩みを止め、どんどん人間臭く堕落してしまうというのに、何故か悪い気分にはならないのである。


欲しがらない、求めない。

それがどんなに人としての彩りを失わせるものか、後悔に歯噛みするアスランを目の当たりにして、思い知らされた気がした。

(それに…何だか可愛いし)
ディアッカごときにいいように言いくるめられられて絶句してしまうアスランの姿など、これまで想像もつかなかった。ましてそれが飽きるほど繰り返してきたはずの“恋愛沙汰”とくれば、ニコルが微笑ましく感じてしまうのも無理はない。

らしくなく、無条件に力を貸してあげたくなる。
でもきっとニコルにとっても、これは悪くない変化なのだろう。



孤高の王者では寂し過ぎる。
ならばその隣に彼を支える誰かが居てもいいのではないか。




「…――アスランが彼‥キラさんにあんな態度を取ったのも、何か事情があったってことなんですね。差し支えなければ話してもらえます?」

幼馴染みとはいえ他人の為に何かしてあげたいなどと、これまで思ったことも考えたこともないニコルが、そう言ってにっこりと笑った。




キラの存在ひとつで、これまで積み上げてきた彼らの冷めた関係までが、ゆっくりと形を変えようとしていた。




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