真相




「自分がフッた相手だろ。それこそ誰と何処行こうが、お前には関係ないだろうが」
「フッたんじゃない!」
鋭い否定が飛んで来るのも、計算尽くだったのだろう。ディアッカの言い分を覆すことは出来なかった。
「い~や、お前はあの坊やをフッたんだよ。それもこっぴどくな。傷付いてたぜー。扉が閉まる瞬間までずっと見てたもんな、お前のこと」
「―――――っ!」
アスランの表情が痛みを堪えるように歪む。
振り向くことさえ叶わなかったが、キラが自分に縋るような視線を向けていたのは知っていた。
本当はあの場で全てぶち撒けてしまいたかった。こんなものは茶番劇でしかないと。駆け寄って抱き締めて、キラをちゃんと安心させて笑顔が戻るまで、体温を分け合いたかった。
せめて先にキラに事情を伝えられていれば、無用に傷付けるようなことはなかったかもしれない。しかし手立てがなかったのだ。



ギリリと音がするほど奥歯を噛み締めるアスランは、長い付き合いのニコルでさえ初めて見るものだった。

ニコルの知るアスランとは良くも悪くも無欲だった。無論それは一般的に使われるような“欲がない”という意味ではない。欲しいと思う以上に先に与えられてしまうから、強い欲求を抱く暇がないという意味の“無欲”だ。
極論かもしれないが、人は欲がなければ死んでいるのも同然なのではないかとニコルは思う。ああなりたい、こうなりたいと理想を求めて努力することにより、命は生き生きと輝くのではないだろうか。
それを証拠にアスランは常にどこか冷めた目をしていた。

尤もニコルはそれも含めて、アスランには一目置いていた。アスランは例外だと思ってきた。
容姿・頭脳共にズバ抜けて優れていて、その上あのパトリック・ザラのたった一人の後継者。何処をとっても完璧なアスランが、なんでも意のままに手にすることが出来るのも、寧ろ当り前の待遇なのだと疑問すら抱かずに。




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