真相




さっきから気にはなっていたのだ。ニコルの提案しただろうくだらない賭けなど一喝しそうな、癇癪持ちの男の顔がない。仲間内でも4人は特に境遇も似ていて繋がりも深く、本人たちが好むと好まざるは別だが、世間的には所謂“幼馴染み”のような存在だ。ここにいないのは普通に不自然である。

アスランに会話を意図的にぶった切られたことにも全く懲りた様子のないディアッカは、妙に含みのある笑みを浮かべた。
「あー、アイツねー。なーんか急に帰るとか言い出してなぁ。それもパーティの開始直後に、だぜ?どっか行っちまってそのまんま」
「………詳しくはいつ頃の話しだ?」
「ん~?例の余興のすぐ後だな、確か」
“例の余興”とはアスランとキラの顛末に間違いない。完全に面白がっているディアッカへの報復は後でゆっくり考えるとして、アスランはイザークが帰ったというタイミングが気になった。
「あ!そうか。ひょっとしたらキラさんを追い掛けて行ったのかも―――」
しれませんね、と続けるはずだったニコルだが、慌てて再び口を閉じるハメになる。
アスランからただならぬオーラが噴出していたからだ。
「あれ~?なにがそんなに気に入らないのかな~?アスランくんは~」
無論ディアッカにも分からないわけはない。いや、イザークの突然の退席理由も凡そは推察していたのだろう。だからこその含み笑いだったのだ。


「イザークから連絡はないのか?」
唸るような低音で絞り出した質問にも怯むディアッカではない。
「さぁ。誰と何処行こうとあいつの勝手だし」
「すいません。僕の方にも連絡はないみたいです」
ゆっくりと視線が巡って来て、ニコルも携帯を確認したが、着信もメールが届いた形跡もなかった。
「だいたいよ~」
ディアッカが呆れ返ったと言わんばかりの大層な息を吐きながら、ガシガシと頭を掻いた。どうやら一歩踏み込むつもりになったらしい。
他人の面倒事など遠くから眺めて愉しむのがディアッカという男だが、これは極めて稀な光景だった。




11/17ページ
スキ