真相




ゆっくりと閉まる厚い扉に遮られて、中が見えなくなる最後の瞬間まで、キラはただひたむきに人垣の合間から覗く宵闇色だけを見つめていた。


そして。
音もなく広間の扉が目の前で閉じられる頃には。
もう抵抗らしい抵抗すらも諦めていた。




◇◇◇◇


キラを広間から“連行”した警備の男たちに背中を促されるまま、人気のない長い廊下を歩く。その時のキラは意志などない操り人形のようだった。
いっそそうなってしまいたえたら楽だのにな、と願っている自分を自覚して、唇が僅かに弧を描いた。
頭がまるで回転しない。考えなければならないことはあるはずだが、それが何がさえも分からなかった。

そんなキラを少しだけ正気に返したのは、玄関のある方向とは逆方向へ廊下を進まされかけたことだった。気付いたキラが漸く自分の意志で歩みを止めたのだ。
キラのやったことが何処の馬の骨かも分からない人間の仕業なら、叩き出されて終わりのところだろう。生憎キラの身元はハッキリし過ぎていた。この家の“御曹司”でもあるキラを、彼らは一旦どこかに隔離するのがベストだと判断したらしい。

キラにしてみれば大迷惑な話だ。いっそ放り出して貰った方が良かった。このままこの屋敷の客間かなにかに押し込まれ、彼らのパーティが終わるのをじっと待つなんてゾッとする。


「―――キラさま?」
足を止めたまま一向に歩き出そうとしないキラに、一番近くにいた男の一人が控えめに声をかけてくる。キラはそれを契機に誘導するように背に添えられていた手から、一歩前へ出ることで逃れた。
「帰ります」
小さな声が届きづらかったのか、それともキラの“家”はここのはずなのにと、発言の意味を咄嗟に掴み兼ねたのか。男は一瞬怯んだものの、慌てて引き止めにかかった。




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