策士




怒りに支配されたところとは切り離して存在する冷静な部分で、条件反射的に頭の中のスケジュール帳が開く。調整可能であることを確認すると、甚だ理不尽ではあるがつい安堵してしまった。現在教授の研究が論文の清書段階に入っていたのが幸いした。これが理論を証明するための実験段階だったなら、目もあてられないところだ。何日も泊まり込むことだって珍しくはない。

「空けられないことはないけど…、なにがあるの?」
『ん?いやー、やっぱ“望まれてる”のと“望まれてない”のでは、大きく違うんだな~。折角私と張り合おうと頑張ったのに、お前がガッカリするようなことは言いたくないんだがな。しょうがないんだぞ。相手の都合ってものもあるんだから』
渋々明日の夜は都合をつけると認める返答をしたキラに満足したのか、言葉とは裏腹に姉が本当に言いたかったのはこの先だったのかは知らないが、正直にも声のトーンが弾むように上昇する。嬉しそうな理由と話の内容が全く掴めなくて、増々苛立ちが募った。
「分かんないよ。頼むから簡潔に言ってくれる?」
自分の勉強は次の日に合間で挽回するとして、と、ささくれ立った気分を少しでも落ち着かせる為につらつらと明日以降の予定変更を考慮した。キラにとってカガリの優越感に満ち、勿体付けた引き延ばしは、ただの時間の浪費でしかない。
第一改めて言われなくとも自分が誰からも“望まれてない”存在であるくらいとっくに分かっていた。

だからこそアスランがはっきりと自分を“望まんでくれた”のが、嬉しかったのだ。



先日のアスランとの一部始終を思い出して、僅かに頬を染めたキラに『お前がショックを受けないよう、気を遣ってやったんだぞ』と恩着せがましく前置いたカガリの答えは、悔しいが言葉通りの衝撃を受けるに充分な威力を持っていた。




『私とアスラン・ザラの婚約披露パーティを開くんだ!』




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