策士




◇◇◇◇


帰宅してすぐ、食事も摂らずにキラはアスランへ電話をかけた。が、すぐに聞こえてきたのは、機械で合成された味気ない女性のアナウンスだった。所謂「お客さまのおかけになった電話は、現在~」というやつである。
拍子抜けし、念のためもう一度かけ直してみても結果は同じで、丁度病院に行っているのかもしれないと一旦は諦めかけたキラだったが―――。

「う・わ!」
通話を切るのを待っていたかのように着信音が鳴り出して、驚きのあまり手にした携帯を滑り落としそうになった。上手くキャッチしたつもりが更に弾んで、数回お手玉をしたあと、やっとしっかりと捕まえられてホッとする。そうこうしている間も幸いにしてコールが止むことはなく、慌てて目にした液晶にはアスランの名が表示されている――なんて都合のいいことが起こるはずもなく。


(カガリ――…)



姉とは一方的に『アスランを譲らない宣言』をやってしまってから、一度も顔を合わせるどころか、話しすらしていない。あの時は半ばやけっぱちになっていて勢いで宣言した感が否めないが、今では比べようもないくらいもっとアスランを譲れなくなっている。

しかし何を言われるのだろうと怖じ気付いてしまうのもまた確かで、このまま居留守を使ってしまおうかと、狡い考えが頭の隅を過った。
だが短気な姉が今回に限ってはやたら根気よくコールし続けるため、キラは渋々通話ボタンを押し、携帯を耳に押しあてた。

「―――はい」
『やっと出たな。てっきり居留守でも使うのかと思った』
「そ・んなこと、しない!」
開口一番の挑発的な言い方に、釣られてカッとなった。無論、その程度のことでカガリが怯むはずもなく、それどころか更に揶揄かってくる。
『へー。なんで声が裏返ってるし』
「今家だから、携帯は鞄の中に入れてて、取り出すのに手間取っただけだ!」




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