策士




「僕はずっときみのことが嫌いなんだと思ってた。でも可笑しいでしょ?そんな頃からきみに貰ったものは大事に取ってあるんだよ。いつだったかプラネタリウムで会った時のチケットの半券なんかも。イブの夜のココアは飲んじゃったけど、冷えきった僕を温めてくれた温度は今だって忘れてない。そうやって大事にしてたんだ。なんでだろうって自分でも不思議だった。でもやっと気付いたんだ。僕は最初から、きみのことが好きだったからだって」
キラはもう招待客から向けられる視線を感じてはいなかった。
全身全霊でアスランの反応を伺っていた。彫像のように動かないアスランのほんの僅かな変化も見逃さないように。
「僕は本当にこういうことには鈍くてさ。でも僕にもちゃんとこんな尊い気持ちが存在したんだって気付けたのは、他ならぬきみの導きがあったからだ。きみが僕を求めてくれたから、僕もそうだったんだと自覚出来た」
その時になってやっと、呆気に取られて茫然と動けなくなっていたに違いない警備の男たちが駆け寄り、キラの肩を掴んでその場から引き離そうとした。キラを知らないわけではないのだろう、乱暴な遣り方ではなかったが、明らかにこの席での異物を排除しようと動いている。キラにしても警備員がいることは織り込み済みで、この略奪劇が短期決戦になることは分かっていた。
「やだったら!放してよ!!」
抵抗しながらもなんとか彼らの隙をついて、アスランに向かって手を差し伸べる。
「アスラン!」
必死の叫びに漸くアスランがキラの方を向いた。が、気を抜けば連れて行かれそうになるから、その表情までは確認出来ない。
「カガリでも他の人でもない!僕を選んでくれるなら、この手を取って!!」
あらん限りに振り絞った声。
しかしキラの頭上に落ちてきた言葉は―――



「すまない」




感情の籠もらない“謝罪”であった。




20120915
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