策士




そんな想いが途切れ途切れに頭の隅で纏まっては、ヒラリと心の中へ落ち、降り積もる。招待客の中程に居たキラは、フラフラと定まらない足取りで前を目指して歩きだした。

距離が縮まるに従って、アスランが妙にそぐわない無表情で立っていることに気付き、自然と首を捻る。彼のポーカーフェイスは珍しいものではないが、それでもこの場でのそれがあまりに相応しくない気がして、キラはどうしようもない違和感を覚えた。無論その気持ち悪さを明確に説明しろと言われても、キラにも出来はしないのだが。


やがて不躾に近付く気配を不審に思ったのだろう。アスランがキラの方へと視線を転じた。
視線が合った瞬間、僅かに見開かれた翡翠の瞳は、まさかキラがここに現われるとは想像もしてなかったことを物語っていた。キラが来ない理由を、やっぱり口先だけの男だったと怒ったとか、それとも決まったことなら仕方ないと諦めたのだと考えて、無理矢理納得していたのだろうか。確かにこれまでのキラを知る人間ならば、そういった結論に至っても不思議はない。キラ自身も自分がらしくないことをしていると思うのだ。
そんなキラが姿を現しただけでなく、あろうことか招待客に紛れていたのだから、アスランが驚くのは当然の反応といっていいだろう。

だがすぐに痛む傷を抉られたかのように歪められたアスランの顔に、キラの心臓が嫌な鼓動を打った。
ほんの一瞬。多分見つめ合っていたキラしか気付かないくらいのその表情は、ひょっとしたらアスランも無自覚だったのかもしれない。あっという間に無かったかのように消え去り、アスランは元の奇妙なポーカーフェイスに戻ると、視線すらも外してしまった。

見なかったことにされたのだと、全身が竦んだ。



「―――ご紹介頂きました、アスラン・ザラです」
アスランはキラに一言の声をかけるでなく、作り笑顔で挨拶を始めてしまう。目の前で起こったはずの冷たい仕打ちが、キラには俄かに処理出来なかった。




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