策士




なんにせよウズミまでがカガリについてしまえば、キラにもう味方はいない。たった一人でパトリックに立ち向かわなければならないのだ。
まがりなりにもアスランの実父をここまで悪者にするのはいい気分ではなかったが、少なくとも今夜はキラの意志を分かってもらえる絶好の舞台になる。
(それに…)
キラは無意識に服の胸元を握り締めた。

僕は独りじゃない。味方ならいるじゃないか。


アスランが一緒に戦ってくれる。




しかしパトリックが予想した以上に汚い手を使っていたのを、彼をよく知らないキラが思い付くはずもなかった。




◇◇◇◇


キラが広間へと入ってほどなくウズミが現れて、賑々しい社交の場となっていたそこは、水を打ったように静まり返った。こうしてみるとよく解る。ウズミは立っているだけで威厳のある人間なのだと。
そこにいるだけで他者の注目を集める存在。普通ならそんな男を父に持つことを誇らしく思うのだろうが、キラからしてみれば尚更遠く、寂しさを感じるだけであった。


「お忙しい中、このように大勢の方々にお集まりいただいて誠に光栄です。というのは既にお報せしておりますように、今夜はこのアスハ家の後継者であるわが娘カガリが20歳を迎えるに先んじて、正式な許婚者をご披露するための晩餐であるためであります」
おお、という静かなどよめきが広間を満たす。そこへ美しく着飾ったカガリが現れ、ギャラリーに向けて些か大仰な素振りで頭を下げた。だがそう思ったのはキラだけだったらしく、一応顔くらいは知っているアスハの親類たちにしても、別段不快そうではなかった。“舞台役者のカーテンコールじゃないんだから”なんて印象を受けたのは、単にキラの卑屈さから来るもので、これが人の上に立つ者が当り前に身に付けている所作なのだと、育ちの違いを感じてまたも気分が沈んだ。




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