策士




幾ら普段はどんな冷めた関係であろうとも、パトリックがアスランにとってたった一人の身内であることに変わりはないのだから。
倒れたという父親の様子。そんな基本的なことさえ訊くのを忘れるほど実は冷静さを欠いていたアスランに、キラは自分が愚かな思い違いをしていたのだと舌打ちしたい気分になった。
パトリックの身に起こった出来事を淡々と告げた口調も表情にも、取り乱した様子はない。でもそれは努めてそうしているだけで、不安でないはずがない。

自分こそ。たった一人の家族だと思っていた母を喪った経験のあるキラこそが、解ってやらないといけなかったのに。



「とにかくその病院とやらに行こう?」
「ああ…そうだな」
ふと視界に捉えたアスランがハンドルを握る手が僅かに震えていた。この暗闇では定かではないが、時間と共に段々と表情も強張って来ているようだった。

少しだけ躊躇ってキラはある提案をしてみた。
「ねえ、運転代わろうか?」
しかしそれに対するアスランの答えはすげないものだった。
「免許もないのにか?」
「あ・あるよ!持ってなきゃ代わろうかなんて言わないし!!」
「じゃあ訊くが。取得後、運転した回数は?」
「……………ゼロ」
「恐ろしいことを言う奴だな。免許があるだけと、実際運転出来るってことは同義じゃないんだぞ」
「……意地悪!」
ぷい、と拗ねて横を向いたキラの子供っぽい仕草に、アスランにも漸く少し笑う余裕が出来てくる。



普段通りの変わらない会話。
それがキラ特有の気遣いだと、分からないほどアスランも愚鈍ではなかった。




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