策士




そのくらいでは到底収まりそうもない。賢明なニコルが止めなければディアッカは今度は癇気を起こした自分を揶揄って来たはずで、そうなったらなったでもっと怒鳴り付けてやれたのに。と、何も悪くないニコルを恨めしく思う程度には腹が立ったのだ。

何気なくディアッカが発した“二番目”という言葉に。


世間的に見れば確かにキラは“二番目”なのだろう。だがイザークにはその言葉が併せ持つ侮蔑めいたものが、あの彼には似つかわしくないと思った。
会話らしい会話を交わしたわけでもない、寧ろただすれ違っただけという表現の方がしっくりくるような、全くのアカの他人。あんなに儚い外見に関わらず彼には強さがあると感じた。あとから知ったことだが、心ない言葉で周囲に認識され、それを諦めるでも拒絶するでもなく現状を受け入れた上で、それでも俯かずに前を向く。そういう強さなのだと理解した。あの小柄な身体の一体どこからそんな力が出るのかと驚愕さえ覚えた。
力を、あの零れそうに美しいアメジストの瞳に漲らせていた。
惹き付けられたのだ、と今なら解る。

自分を一瞬で魅了した相手に対し、ディアッカなどが軽々しく揶揄するのは許せなかった。例えそれが世間一般のキラに対する評価なのだとしても。



「チッ!」
傍では今さっきまで興味本位で好き勝手なことを噂し合っていた二人が、わざとらしく直立不動で並んでいる。ディアッカに至っては口元を手で覆っている様子から、笑いを堪えているのはほぼ間違いない。それがまた苛々させるのだから処置はなかった。

視界に入れてもムカつくだけの連れを意識から締め出すように、会場を見回したイザークの視線が、ふと一点で止まった。




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