策士




ディアッカの言ったことは決して大袈裟に誇張されたものではない。確かにそれがアスランという男の本質だとニコルも思っている。だがそれに納得しかねる自分がいた。
「…そうですか?僕、今回はちょっと違うかなって気もしてたんですけど」
「は?そりゃまたなんで」
「だって最近のアスランって雰囲気が変わったっていうか。…いえ、ただの気のせいかもしれませんけど……」
ポンポンと軽快に会話していたニコルが、逡巡するように急に語尾を濁した。ニコルにしても確証があったわけではないし、このまま突き詰めれば、あまりに冗談がキツい結論に辿り着いてしまうのが分かったからだ。

だって有り得ない。あのアスラン・ザラが。


―――まるで“本気の恋をしてるみたいだ”なんて。



割とはっきりものを言うタイプのニコルが珍しく言い淀んだのだが、無論ディアッカにそれを汲み取る繊細さは皆無で、同じ調子で会話は続く。
「確かに奴にしては手こずってるみたいだったけどな。俺は最終的にこうなるんじゃないかと思ってたぜ?アスランが“二番目”なんかで満足するとは、到底――」
「煩いぞ!いい加減にしろ!!」
それまでずっと黙して語らなかったもう一人。切り揃えられた銀髪が特徴的な綺麗な顔の男が、やや甲高い声で二人を一喝した。
キラとは数回の面識を持つイザークだ。
ニコルは突然のイザークの鋭い声にパタリと会話の続行を停止したが、それは怯えたとかそういう類のものではない。こんな時のイザークに何を言っても通用しないということを熟知しているが故の狡猾さに基づく行動だった。
「んだよ、イザークの奴。今日はやけに苛々してるよな?」
懲りない男代表のディアッカも流石に小声になり、ヒソヒソと耳打ちしてくるのにも、ニコルは無言で人差し指を唇の前で立てるにとどめた。
ディアッカに見抜かれた通りの刺々しい気分を持て余したイザークは、二人を更に睨み付けて威圧しただけでは飽き足らず、わざとらしいくらい盛大な舌打ちを披露してやった。




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