策士




しかしアスランとて、そんな僅かな動揺が声に現れるほど純粋でもない。
「自慢ではありませんが、俺が数日家に帰らないなんてそう珍しいことではないでしょう。父上も今までそれを気にされた様子もなかったと推察しますが」
「確かにそんなものは何の自慢にもならんな」

緩衝材を失ったある出来事を境に、隔たってきた親子である。今となっては遠く開いた親子の距離も、決して居心地の悪いものではなかったはずだ。お互いに。
それを覆すかのように、いきなりアスランの生活に口出しされても、正直困惑しか生じない。
「貴方の手を患わせるようなことをした覚えはありません」
遊んでいた自覚はあるが、暴力事件を起こしたり、まして警察沙汰になるような頭の悪いことはやってない。パトリックにしても仕事にかまけて殆ど家を空けているのだから、これからもそれでいいではないか。

それが今回に限って、秘書に手の込んだ芝居までさせてまでアスランを呼び戻したのは、やはりパトリック自身がキラの存在を軽視し切れなくなったからだろうか。
予測は立つが、それとこの馬鹿げた監禁劇が結び付きづらかった。
もう少し情報を得る必要性を感じ、それまではこの茶番に付き合わなければならないかと思うと、アスランは心底うんざりしたのだった。
「そうか?心当たりならあるだろう?」
ハッキリとは言わなくても、やはりキラのことだと直感した。
「可笑しなことを。自分の許婚者に逢うのに、誰に断りが必要ですか?」

「お前の許婚者はカガリ・ユラ・アスハだろう!!」


それまでの遣り取りは相手の出方を探るための軽いジャブの応酬のようなものだった。そういった肚の探り合いをしなければ、まともな会話も成立しないとは、甚だ歪んだ親子関係だと実感する。
のらりくらりの会話に業を煮やしていたのはパトリックも同様て、とうとう癇癪を起こすと、突然声を荒げ思い切りテーブルを殴り付けた。そのくらいはアスランの方も想定内だ。上等なテーブルが立てた身の竦むような大音響も、アスランの眉一つ動かすことはなかった。




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