策士




開口一番、冷めた台詞が口をついた。
「随分とお元気そうですね、父上」
現れたパトリックはいっそがっかりするほど、よく知る父親と寸分変わらぬ恰幅と血色の良さだった。
どんなに穿った目で見ようとも、呼び戻されるような急病どころか、風邪ひとつひいた気配はない。
皮肉を込めて当て擦った台詞だったが、無論そんなものが通用する相手でないことは百も承知の上でのことだ。それでも何か言ってやらないと気が済まなかった。案の定鼻で笑われて、軽くあしらわれる程度の威力しか発揮しなかったけれど。
「自分の息子を自宅に軟禁などして、一体どういう酔狂なのか、是非納得いくようにお話し願いたいものですね」
「お前こそなんのつもりだ」
パトリックはアスランの鋭い視線など完全にスルーすると、ソファに腰を下ろしながら深い息と共に吐き出した。室内の惨状も目に入らないはずはなく、呆れ果てたと言わんばかりだ。
「このくらいのことをせんと、暫く帰らないつもりだっただろう」
妙に確信めいた言葉にアスランは僅かに眉を上げる。
意外にもパトリックの見解が正しかった所為だ。


アスランは所謂『株』で手にした金の税金対策として、都内にいくつかマンションを所有している。ベッドと衣類・パソコンくらいしか置いていない、本当に寝るだけの部屋ではあるが、ライフラインとして電気と水道くらいは確保してある。必要最低限しか使わないから生活感はまるでないものの、料理など出来なくても食事は外で済ませればいいし、掃除も定期的に業者に入ってもらえば充分だった。アスランは時折気紛れでその部屋を利用するのだが、あんな連絡が来なければ、実はあのあと数日はその内のひとつで過ごそうと思っていたのだ。

可能であれば、キラと一緒に。


まさかそこまで見抜かれているとは思いもしなかった。




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