策士




◇◇◇◇


キラがカガリから衝撃の事実を聞かされた電話から、時は少し戻る。



客用寝室に軟禁状態だったアスランがパトリックと顔を合わせたのは、閉じ込められた次の日の夜という、あまりに長く待たされたあとだった。

アスランが最初に事態の異様さを覚えたのは、キラに連絡をしようとした時だ。別れ際の不安そうな様子から、アスランからの電話を今か今かと待っているに違いない。早く安心させてやって、つまらない嘘に付き合わせて悪かったと謝罪しようと上着のポケットを探ったのだが、指先に携帯の感触はなかった。そういえば使用人頭が持ち去ったのだったと思い出す。連動するように男が立ち去る時の情景が蘇り、扉には外から鍵がかけられたのだと改めて認識した。部屋に窓はあるにはあるが、明かりを取るためだけの造り付けでしかなく、元から開けるようには出来ていない。しかも強化硝子が嵌められている。
ここに至り、これはただならぬ状況ではないかと、扉も窓硝子も最初は拳で後に肘や足で壊そうと試みるも、ビクともしなかった。書き物用の椅子とベッドの脇に置かれた小さなテーブルを投げ付けてみても、結果は同じだった。

考えてみれば当たり前だ。この家には政財界の重鎮や裏の世界を牛耳る人物も訪れる。そんな客たちのために誂えられた、謂わばシェルターのような部屋なのだ。ここは。

そしてアスランは今、そのシェルターの中に閉じ込められている。


“自宅”だというのが禍いした。やはりどうやっても油断してしまったようだ。しかもパトリックが倒れたという動揺を誘う捏造までされていたのだから。
外部との連絡を絶つために携帯は持ち去られ、車のキーは万が一アスランが部屋を抜け出したとして、逃げる足を奪うのが目的だったのだろう。
余りにもアッサリ囚われてしまった自分に歯噛みする。悠長に構えている場合ではなかったと後悔してみても、最早どうしようもなかった。




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