策士




深夜の報せに余りいいものはない、と相場は決まっているらしい。


アスランの場合も例外ではなく、電話をかけてきた父の第一秘書の声が事務的に告げたのは、パトリックが倒れたというものだった。




◇◇◇◇


「アスラン、どうかしたの?」
運転席に乗り込んできたアスランが、さっきまでの甘やかな空気を一変させているのに気付いたキラが、すぐに尋ねてきた。さっと表情を変えたのは、何か良くないことが起こったのだと察したためだろう。
今夜の自分はそんなに分かりやすいのか、それともキラが特別だからかと自嘲しながらも、アスランは努めて冷静に答えた。
「父上が倒れたそうだ」
「え!?」
息を飲むような引きつった声をあげたキラは、大きく目を見開いて固まった。
「今さっき父上の秘書が報せてきた」
「じゃ、早く行かないと!病状は?」
ぼら、早く!と急かされて車を発進させたものの、そういえば肝心なことを何も聞いてないと、尋かれて初めて気付いた。
「……いや、懇意にしている医者がいるから病院なら見当が付くが、どんな様子かまでは…」
「え……あ・そうなんだ」
戸惑ったのは、余りに“アスランらしくない”返答だったためだ。


アスランの精神年齢は実年齢よりもかなり上なのだとキラは認識していた。
経済界に並びない大会社の頂点。その唯一の後継者となるべくそれなりの教育を受け、周囲にいるらしい似た境遇の仲間たち以外は、殆ど大人ばかりに囲まれていたのだから早熟だったとしても無理はない。父親とあまり折り合いは宜しくないようだが、絶対者に違いない彼と正面からぶつかることのないように、英知でカバーしているような印象を持っていた。

でもそれは間違いだったのだ。




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