告白




キラにとって衝撃の事実だったのだろう。二の句が継げずパクパクと口を開閉するだけのキラを放置することに決め込み、アスランは内心でここにいる“もう一人の人物”に語り掛けた。


『この人が俺が選んだ人です。如何ですか?』


そよ、と頬に触れてくる風に、この季節にそぐわない温もりを感じる。


『きっと貴女も気に入ってくださったことでしょうね。―――母上』




此処はキラが気付いたように、昔父親の気紛れで連れてきてもらった場所だ。だがそれはアスランの母親の故郷だったからで、実は彼女は今もこの地に眠っている。
アスランは自分が初めて惚れたキラを、母に見ておいて欲しくて、この場所を選んだのだ。


因みにキラがそれを知るのはもう少しあとのこととなる。




◇◇◇◇


「これ、ありがと。あったかかった」
借りていたダウンジャケットを脱いだのは車のすぐ傍まで戻ってからだった。包まれていたアスランの匂いを奪われたようで、少し寂しく思ったのは勿論内緒だ。
アスランはアスランで無事想いが通じ合って、さてこの後はどうしようかと色々と考えを巡らせながら、先にキラを車に乗せる。先日会った女が言っていたホテルで夜景を眺めるのもいいかもしれない。そして明日にでも自分の周りの連中に会わせようか。いや、キラがまともに立てるほど手加減出来る自信はないが。


全てが望み通りに余りにも順調に進んだからか、流石のアスランもかなり浮かれていたのは認めよう。

しかし、このタイミングでこれはないと心底恨めしく思った。


さて自分も車に乗り込もうとした時、ジャケットの内ポケットに突っ込んだままだった携帯が振動したのだ。眉をひそめて取り出したその液晶を眺めたアスランの表情が、更に厳しいものに変わった。
「……アスランです。はい、はい。―――すぐ向かいます」


短く答えて早々に電話を切ったアスランに、キラが気付くことはなかった。





20120622
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