告白




「…―――――――。は…?」



ああ、本当に僕は馬鹿だ。捻くれ者の天邪鬼だ。と、後悔で一杯いっぱいだったキラにストンと落ちてきたアスランの一言。そのたった一言は恐ろしく簡単にキラの思考能力を初期化してしまった。

脳内リセットされたキラは、睨みながらボケるという離れ業をやったまま、動きさえも停止したのだ。


一大告白を遣り遂げたアスランとしては“ちょっと待て、どうしてそうなるんだ”と詰りたくもなる反応だったが、自身の過去を鑑みるに、あまり偉そうなことを言えた義理ではないことに思い当たる。もしやそれほど嫌われていたのかとヒヤリともしたが、藪を突いて蛇を出すのは本意ではないので、敢えて言及は避けることにした。
いつもの口喧嘩への流れになるのは流石に避けたい局面だ。


「大事なことを忘れてた、と思ってな」
依然固まったままのキラからは何のリアクションも返らなかった。既に何か言って欲しいという期待は捨てていたから、先に言いたいことを言ってしまうことにする。

キラとの関係は最初からそうだった。タイミングは最悪だし、相性が悪いのではないかとすら疑ってしまう。何ひとつ思い通りにいかない相手。
可憐と表現しても過言ではないのに、滅法可愛くないことばかりを紡ぐ唇から、またも悪態が零れ出る前に、自分の本心をハッキリと言っておきたかった。


「カガリ嬢に不満があるからお前と婚約してるんじゃない。他に適当な相手が居ないからでもない。俺はお前を手に入れたいんだ。他はいらない」

「ちょ、ちょっと待って!」


珍しく饒舌なアスランに、やっと呪縛から解けたらしいキラが慌てて制止をかけて来た。その動揺ぶりから、瞳には薄らと涙くらいは浮かんでいるかもしれない。あの大きなアメジストの瞳が、涙に濡れて本当の宝石のように輝く様は、さぞや美しいことだろう。
暗くて見えないのが残念だ、とアスランは心底思った。

そぐわないことを考えているのは分かっている。キラに関しては自分すら予測通りに運ばない。

この、心さえも。

でもそれが不快ではなかった。



「……きみの言う“大事なこと”って…今のこ・告白のことなの?」
「そうだ」
寄る辺を探して惑う声音には強い断言で返した。一片の疑念も差し挟めなくて、キラは益々パニックに陥ったようだった。




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