「――――?」

画面に表示されたのは、全く覚えのない番号だったのだ。当然登録もないらしく名前も出ていない。
一瞬リダイアルしてみようかと思わないではなかったが、所詮は番号も用件にも心当たりのないものである。間違い電話かもしれないし、どうしてもの用なら、またかけてくるだろう。

わざわざ面倒ごとに首を突っ込む義理もないと結論付け、今更ながら携帯を置いて席を外した自分の迂闊さを呪った。
だが出しっ放しにしていたわけでもなし、まさか勝手に出られるなど想像もしてなかったのだ。


「………」
無言でアスランはジャケットを羽織り、内ポケットへと携帯を戻した。彼が席を外した理由が支払いのためだと知っていた女も、店を出るのだと察していそいそと腰を上げる。
「ねえ、あたし行きたいとこあるんだ~。ほら先週オープンしたホテル!あそこの最上階にあるバー、夜景がすっごく綺麗なんだって~!」
「夜景か。それもいいな」
「でしょ?」
そう言って当たり前のように絡めてきた腕から、アスランは素早く自分の腕を抜き取った。
「その情報だけは頂いておこう。だが行くとしても、お前とじゃない」

「…………え…?」



固まる女には一瞥もくれず、アスランは背中を向けて歩き出し、背後へと事務的な口調で言い放った。
「車は呼んでやったから、それに乗って何処なりと好きな所へ行けばいい。じゃあな」



何が夜景だ。興味もないくせに。
場所がホテルだということだけで、女の魂胆など見え見えだ。


内心で毒づいた、まるで業務連絡のような感情の籠もらないアスランの言葉を、女は漸く理解したらしい。
「ちょ、どういうこと!?」
場所を憚らない甲高い喚き声に、面倒臭いとしか思えなかった。




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