なるほど遊び慣れた女というのは、こういう時の切り替えも早いらしいと、妙な所で感心する。
だがそんなもので誤魔化されてやるほどこちらも初心ではない。

恐ろしく冷たい目の色での射すような視線を受け、色仕掛けが失敗に終わったのを早々に悟ると、女は慌てて言い訳を追加した。
「あ・あたしだって迷ったのよ?でもあんまりしつっこいから、急ぎの用だったらいけないと思って!」

やはり無言のままで差し出した手に、女はおどおどと携帯を押し付けてきた。


「―――それは…気を遣ってもらって悪かったな」

意外にも礼を言われたことに、女は勢いを得た。それがアスランの企てなどとは気付きもせずに。

「それなのに、女の声だったの!だからあたし思わず切っちゃった。…ねぇ、あたしの気持ちも分かるでしょ?」
案の定洗い浚い顛末(予測の範疇から出るものではなかったが)を勝手に話してくれた女は、熱を孕んだ目で甘えるという余計なオプションまでつけてくれた。より一層機嫌が低下したアスランだったが、敢えて取り合わなかった。

まったく、頭が軽く出来ていて、その点では大助かりだと気を取り直す。
「…女の声?」
「そうよ、女!あたしといるのに、酷いじゃない!」
渾身の流し目を無視された女は喚いたが、ならばアスランにとって最早セフレですらない自分に一体どれだけの価値があると思っているのだろうか。残念ながらそれすらどうでもいいアスランの耳には、既に喚く声すら言葉として入ってくることはなかった。


彼女が手にしていた携帯が自分のものだと認識した瞬間、アスランの頭を過ったのは、もしかしてキラからの着信ではないかというものだった。
ヒヤリとしたが、幸いそれは杞憂だったと判明し、心底安堵する。
疾しいことをしたつもりはないが、無用な誤解を与えるのは回避するにこしたことはない。


しかしそれはそれで新たな疑問が浮上する。相手にまるで心当たりがなかった。
(女からって…。一体誰だ?)
いくら考えてもこの女と同様であるかつての遊び相手くらいしか浮かばないが、一応誰からかかってきたのかと、着信履歴を確認したアスランは、操作する指を止めて当惑した。




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