それなのに教えてもらった携帯電話の番号を、カガリに嘘をついてまで、文字通り“宝物”のように大切に思ってた自分は酷く滑稽だ。

こうしてアスラン本人から疑われることになるとも知らないで。



(そっか、分かった)

この、胸に巣食った空虚さの理由。



自分は傷付いていたのだ。




こんなでは女と会っていたアスランを罵る元気なんか湧くはずがない。
もうその力さえない。



「キ・キラ…?」

話も聴かず先走ったのを悪いと思ったのだろう。珍しくしどろもどろにキラの様子を伺ってくるアスランが、なんだか浮気がバレて慌てているヘタレな夫のようで、ちょっと可笑しかった。まぁ大筋では外れてないのだから、もしも望む通りに事が運び、アスランと結ばれる時が来たとしても、それは確実に未来の自分たちの姿なのかもしれないけれど。
とはいえ相手は真剣なのだから、笑うのは失礼だと思えば思うほど、余計に込み上げて来るものが止められそうもない。

堪えられなくなって咄嗟に顔を下に向けたキラだったが、その動きを追うように覗き込んだアスランが、息を詰めたのが気配で分かった。
まさかキラが笑っているとは思ってなかったろうから、驚いて当然だ。それとも怒っただろうか。


ところが茫然としたアスランの呟きに、驚くのはキラの方だったのだ。




「――キラ‥泣いて…る、のか…?」



え!?と吃驚した拍子に、自分でも無意識にポロリと言葉が零れた。


「…―――やっぱり無理なのかもしれない」



ひゅ、とアスランが息を吸う音を耳が拾った。

それでもキラはまだ自分の発言の内容がよく自覚出来ていなくて、どうしてそんなに絶句しているのかと不思議に感じて顔を上げる。


アスランは僅かに目を見開いたままの凍り付いた表情で、キラをひたすら凝視したままだ。
そんなに笑っていたことがショックだったのだろうか、などとキラは的外れなことを考えている自分にすら気付かない。


だってアスランのらしくない様子は、ほんとに可笑しかったのだ。だから必死で笑いを堪えていたはずだ。

その、はずなのに。




18/20ページ
スキ