「僕がカガリに教えるなんて絶対に有り得ない。何故ならきみは何気なく教えた番号だったかもしれないけど、僕にとってはきみとの絆が深まった証で“大切な宝物”だったんだ。―――たかが携帯番号だって分かってたのにね」
「……宝物?」

やっと俯いていたアスランが顔を上げ、そして小さく息を飲んだ。
あぁこんなに光源が乏しくても、やっぱり酷い顔だと思われたのだと、キラは一瞬引き結んだ唇を、それでも努力してすぐに解いた。

「笑っちゃうよね。確かに“宝物”だなんて僕が勝手に思ってただけだけど、きみにはそんなことさえも伝わらないなんて。真っ先に疑われるとは思わなかったよ」

「っ!」



ずっと、カガリからアスランが女の人と会っていると聞かされてから、キラの胸中を占めていたのは怒りでも哀しみでもなく、虚しさであった。
胸にぽっかりと大きな穴が空いてしまって、そこをどうしようもなく冷たい風が吹き抜けていく。風は時に鋭い刺を生やして、悪戯に心臓の裏を切り付けるみたいな痛みを与える厄介なものだった。

カガリみたいに素直にアスランを罵れればどんなにかいいだろう。そうすればこの痛みも少しは和らいだかもしれない。アスランの許婚者で、彼の特別の人ならば、そうするのは寧ろ当たり前の権利なのに。


でもアスランに“許婚者”として望まれたのだと、その考え自体がただのキラの勘違いだったとしたら―――?




払拭しかけていた“男”で“二番目”という“負い目”が、またぞろ頭を擡げてくる。

ザラ家の許婚者として胸を張って誇れるものなど何一つない。それでもカガリやウズミにまでアスランの許婚者でいたいのだと言い切れたのは、アスランを信じようと決めたからだ。
なにを縁にといえばやはりあの夜、体を重ねたことが大きかったが、考えてみればそれすらもアスランにとっては別に珍しいことではない。キラにとって特別なことだとしても、アスランにもそうだとは限らないのだ。




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