「おー!ニコル、居たのか!」
アスランからの容赦ない氷点下の視線のターゲットにされて冷や汗をかいていたディアッカが、助かった!とばかりに縋るようにニコルを見上げた。どこまでも調子のいいディアッカに、ニコルは小さく息を吐いて苦笑を零す。
「最初っから居ましたよ。因みにさっきから貴方の声も耳に入ってました」
「………え…?」
そこでニコルの周囲の空気が一変した。苦笑とはいえ、それでも親しみが籠もっていた笑顔も、唇だけの冷笑へと変化する。
明らかに意図したものだ。
「さっきから聞いてれば、何なんですか、貴方は。確かにアスランは魅力的ですからね、分からないでもないですが。それにしたって友人の許婚者の話がそれほどまでに気になるなんて、女の人でもあるまいし。それとも彼に気のある女の人たち同様、貴方もアスランのことが好きだとでも?」
「ば――!ち・違う!!なんでそういう結論に!!」
「おや、そうですか?やたらとアスランの許婚者のことを根掘り葉堀り聞きたがる辺り、僕にはもうそうだとしか」
「だっから!ありえねーって!!」
「では僕の勘違いで構いません。貴方がアスランをどう思っていようと心底どうでもいいですしね。ただあんまりしつこいと“僕”が聞いてて鬱陶しくなるんで、そろそろやめてもらえます?」


ニコルはディアッカを助けに来たわけでも、二人を取り持とうとして現れたわけでもない。このところ毎日のように聞かされるディアッカの一方通行な話題に、“自分”が苛立ったので口を挟んだに過ぎないのだ。
つまりニコルは徹底した“自分中心”人間なのである。
普段ニコニコと笑みを絶やさないはずのニコルだが、ある一線を越えると、アスランですらちょっとたじろぐ冷酷さを垣間見せたりする。
しかもどうやら計算し尽くした上なのだから、タチが悪いことこの上ないのだ。




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