あくまでも政略結婚だと思っているアスランは、キラの宣言した通り、次々と愛人をつくっては、その女性の元へ通うことだろう。そうなった時、自分の方だけが彼のことを好きだったら?
また、暗闇の中どうしようもなく母を待つしかなかった子供時代のように、寂寥感に堪え忍ぶしかない。
それが怖かった。本当は今も怖い。
いっそウズミの命令に逆らえないから仕方なく結婚する、というスタンスでいた方がよっぽどマシだったのではないかとさえ思うほど。


キラは振り払うように強く首を振って、ゆっくりと半身を起こした。
(駄目だ…連絡、取らなきゃ)



もう手遅れなのかもしれない。

カガリの言い方では、アスランとの婚約は最早決定事項のようだった。


でも抵抗したいのだ。子供の頃のように、何もせずこのまま諦めてしまうのはどうしても嫌だった。ただ待つだけの日々に戻るのは嫌だった。
少しは成長した今のキラなら、変えられるかもしれない。

何より既にアスランはキラの心の一番深い場所に居座ってしまっているのだ。それは動かせない事実。ならば今までのように流されて諦めてしまっては、哀しい未来が訪れるのは間違いないだろう。
諦めるのはやるだけのことをやってからでも遅くはないはずだ。


それにはまずウズミに会うのが先決だ。無理にでも会って、アスランと一緒にいたいのだと告げてみよう。
敷居が高いなんて怖気づいている場合ではない。



キラは立ち上がると先ほど机の上に投げた携帯を取り、しっかりした指先でウズミの番号をメモリーから呼び出した。

カガリに嘘は吐いたけれど、これ以上自分に嘘は吐きたくなかった。

(お願い、母さん。力を貸して)

聞こえ始めた呼び出し音に、キラはそっと祈りを込めた。




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