携帯の番号なんて個人的なもの、ザラ家に問い合わせたところで、あのキッチリした使用人たちが教えてくれるとは考え難いが、それとも“アスランの許婚者”ならば話は別なのだろうか。そこにこそキラが口を出す隙間などありはしないし、想像で補うしかないところに、なおさら胸がモヤモヤするのを止められそうもない。


午後の授業には間に合いそうだったから、多少身体は辛かったものの、大学には行くつもりで帰って来たが、その気もすっかり失せてしまっていた。




(折角、アスランが誘ってくれたのにな…)
思い出すだけで恥ずかしくて頬に熱が集中するような出来事もあったが、アスランとの時間は概ね楽しく幸せな時間だった。
こうして一人になってみるとそれを一層強く意識させられる。


決して独りが好きな訳ではないのだ。それどころか人一倍寂しがりだという自覚もある。
仕事で夜遅くまで帰って来ない母を待つ寂しさがトラウマになって、暗闇まで忌み嫌うようになった程度には。
逝ってしまった母親に戻って来て欲しいなどと思ったことはないが、人肌の温もりを恋しいと感じる、孤独な時間は確かにあって。

いつか自分にも温もりを与えてくれる、そんな相手が現れることを願っていたのだ。


それに一番近い候補者が、まさかあんな図体も態度もでかい、唐変木の朴念仁だとは笑うしかない。しかもこれまでもこれからも、縁は薄いと思っていた父のたっての希望によるものとは、想定外もいいところだ。

だけどいくら自嘲してみても悔しいことに、そんなケチがつきまくりのアスランを手放したくないと思っている。ひょっとしたら誰にも気付かれることのなかったキラの孤独を、埋めてくれる唯一の相手なのではないかとさえ思い始めていた。



“好き”になりそうだった。
いや、もうなっている。




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