言ってしまった、とキラは真っ赤になった。とはいえそれが電話の向こうのカガリには見えないのだから大丈夫だと、靴を脱ぎながらも必死に言い聞かせる。
口から心臓が飛び出すのではないかと思うくらい暴れる鼓動を押し殺し、静かにカガリのリアクションを待った。

きっと今になって前言撤回するキラを怒るだろう。他でもない自分が婚約解消を一度は承諾したのだ。思う様罵倒されても仕方ないと、キラは覚悟したのだが。



「…………?」

しかし暫く待っても電話の向こうからは何も聞こえてこない。素っ頓狂な声の後、カガリは絶句したかのように無言を貫いていた。
「…あの……カガリ?」
なにも言いたくないほど気を悪くしたのだろうか?そうだとしても無理からぬことではあるが、顔が見えないだけに、こちらとしてもそう長くは沈黙に耐えられそうにない。斯くして恐る恐るではあるが、キラの方から声をかけてみることにした。
と、次の瞬間、耳に届いたのは弾かれたような笑い声だった。
『ぶはっ!ちょ、真面目な声でなに言い出すんだよ、お前~!吃驚し過ぎてフリーズしちゃったじゃんか!』
「え?」
『あははっ!あ~可笑しい!お前、案外冗談上手いのな!』
「いや、冗談なんかじゃ」
『いやいやいやいや、騙されないぞ!大体今までがおかしかったんだしな!いくら同性同士の結婚が許されてるって言ったって、実際想像もつかないもんなぁ!』
「………………」
『それともザラ家に気を遣ってるのか?コロッと変更に応じたりして、余りにも調子が良過ぎるんじゃないか、とか。だったらそんな気遣いは必要ないぞ。どちらかを嫁になんて曖昧なことを言ってきたのは向こうだし、そうじゃなくてもアスハ家の血筋であるこちらが上なんだから。こっちにも事情があったから渡りに船だったことは認めるが、やっぱり“私の方がいい”と言い出したのもあっちなんだ。それでも調子がいいとか不満があるってんなら、私が立派にザラとアスハの跡継ぎを産んでやるよ!それでチャラだろう?』




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