それでも存外に気持ちが軽くなったことで、午後一杯サボるつもりにしていた大学へ戻り、講義を受けようかという気分になる。我ながらゲンキンだが、時計を覗くと4コマ目の授業になら間に合いそうだった。その後は来月末が提出期限のレポート用の文献を当たってみようか。取り掛かるのは些か早過ぎる気もするが、来月は12月。単発のバイトのクチも多いだろうから、準備を始めておくにはいい頃合いだろう。

今後の予定を立て直しながら、だだっ広い邸内を機嫌よく玄関へと向かっていたキラ。しかし目指した先ではちょっとした騒ぎが起きていた。



「カガリさま!今日はまた随分と早いご帰宅ですね」
予定外の令嬢の行動に出迎えが遅れたのだろう。まだこの家ではこんな浮世離れした風習が残っているのかと常ならば冷めた目で見るところだが、使用人の慌てふためいた声が耳に届いた瞬間、キラは反射的に飾り柱の影に隠れるように身を潜めてしまった。

無論キラが来ているなんて思いもよらないカガリは、使用人と普通に会話を続けている。
「気にするな。ちょっと独りになりたくてな。それよりお父様がご在宅なのか?珍しいな」
キラの背中をヒヤリとしたものが駆け上がり、心臓が激しく鼓動を刻み始める。
「はい。すぐにまた外出されるようですが」
「ふ~ん」
使用人は余計な説明を省いたようて、キラの唇から一先ず安堵の息が洩れた。

しかし直ぐ様安心している場合ではないと自分を戒める。



確かにカガリと顔を合わせ辛くて、わざわざ彼女が不在であろう時間を狙ったのは自分だ。でもウズミに全て伝えられたことで局面も変わり、改めてコソコソと目を盗むようなやり方をした自分が酷く卑怯者に感じた。
なによりカガリは立派な当事者だ。しかもユウナとの正式な婚約が嫌だったからという大義名分をチラつかせてはいるが、彼女がアスランに惹かれているのは明白。
それに無神経なトコロにはどうやっても馴染めそうにないが、カガリはまごうことなきキラの姉である。

その、姉に対して。




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